16-33 安全第一、命は一つ
今なら分かる。里や社の人が止めたのは、こうなると気付いていたから。
化け王に体を、じゃなくて救われる事じゃない。
獣を見つけて、狩れもしないのに立ち向かう。襲われても逃げられず、そのまま動けなくなる。それで生きたまま食われるか、これまでの事を悔いながら死ぬ。
そんな末さ。
「特別な血が体に馴染むまで、この空間から出られない。だから今、出来る事をする。それだけ。」
ウン。
「今日も張り切ってイッテみよう。」
オウッ。
「オいっちニッさんシッ、にぃニッさんシッ。」
謎ダンス、再び。
体が温まったらストンと腰掛け、気合を入れて勉学に励む。
やまとは島国だがアンリエヌは山国。周辺諸国の言語に通貨、文化・風習に加えて宗教観。地理や歴史も必須。
覚えることが多過ぎて眩暈がする。
本来なら助からない大怪我をしたのに、こうして生きているのは化け王の御蔭。
はじまりの一族から血を分けて貰っても、その血が体に馴染んでも人は人。特別な力が現れる事は無い。だから努力しなければイケナイ。
「・・・・・・この国、凄いな。」
いろんな事が進んでいる。
「当たり前か。」
はじまりの一族が建てた国だもん。人のと同じワケないよ。
「黒髪は居る、黒目も居る。でも平たい顔した黒目黒髪は珍しい。見つかったら捕らえられ、見世物にされるだろうな。」
ブルルッ。
「血が馴染んでも許可なく、やまとに戻されるまでココから出ないゾ。」
戻れる、よね。
乱雲山には戻れないケド、やまとに戻れるなら戻りたい。だって余所者だもん。どう見ても、どう考えても違うよ。
父さんたちと違って宝の力なんて無いし、誰かの役に立てると思えない。
化け王城内は安全だって、人より魔物が多いって聞いた。
ソレって城外では魔物より、人の方が多いって事だよね。コレといった何かを持たない小さいのが、城外をウロウロすればドウなる。
考えるマデも無い。きっと悪いのに捕まって、血を一滴残らず抜き取られるんだ。
「うん、出ない。言い付け破らない。」
安全第一、命は一つ。
「『攻撃は最大の防御である』と言えるのは、周りに優秀な人しか居ない、恵まれたヤツの言う事さ。」
裏切られたらオワリだよ。
「学問と武術に秀でた人格者なんて、ほんの一握り。いいや、一撮みだね。」
ウンウン。
ドサッ。ドサドサドサッ、ドサッ。
「あらまっ。また、ですか。」
ドサドサドサッ、ドドドドドォォ。
「多いな。」
アンリエヌは大国、それも強国。はじまりの一族が治める国だ。人が束になっても勝てない、敵わない。
表を大王、裏を化け王ってのは昔の話。才を持つ王族は現、化け王だけ。だからカー様がアンリエヌ国王。
アンリエヌ国民は王族が皆、はじまりの一族だと知っている。それでも従うのはアンリエヌが、この惑星で一番安全だと知っているから。
「フォンデュにリゾット、ソーセージ。どんな味なんだろう。きっと、とっても美味しいよね。」
ウットリ。




