16-31 楽しそうだ
叶うなら、私と同じ苦しみを味わわせたくない。けれど将来、収集の才だけではアンリエヌを守り切れなくなる。
そうなる前に動かなければ。
「♪手を上げフリフリ、もう一方もフリフリ。お尻フリフリ、膝を曲げピョォン♪」
座学に飽きたジロが瓶の中で、歌いながら奇妙な踊りを披露。
「♪足をプラプラ、もう一方もプラプラ。腰をクルクル回してピョォン♪」
二番もあった。
「♪首をコキコキ、上を向いたら舌だしてベェ。お目目パチパチ、お手手パチパチ、足はパチパチできないピョーン♪」
元気で何より。
アンリエヌは山国。
深奥にあり獣、特に熊が多く足場も悪い。ほんの少しでも気を抜けば、アッと言う間に谷底へ真っ逆さま。
「また来た。」
化け王城内にある執務室で、思わず頭を抱える。
「ローマはシチリア領有を巡って、フェニキアと交戦中だろう。」
両軍ともギリギリで、より強い兵を求めているとか。
「少ない兵糧、歴史を感じさせる武器。」
これでアンリエヌを落とせると、本気で考えているのか? あの二国は。
時間停止機能付き無限格納庫を創造したが、このままでは消費しきれない。この惑星から動物が絶滅しても、数万年は困らないだろう。
まぁ、そうなる前に拠点を作るがな。
一から作るのは面倒だ。アンリエヌを丸ごと、球体に取り込もう。適当な惑星に移住するより、上空に浮かべた方が良い。
「マドワイアが動く前に、取るか。」
タルシェを。
マドワイア王国はギリシア人によって、ギリシアとペルシアの中間に建国。
都市国家を形成せず『異民族』として扱われたからか、この度の戦争でペルシア側についた。が、今も親ギリシア姿勢を崩さない。
タルシェが大戦に巻き込まれる前に、合法的かつ速やかに領有権を取得。領海を定め、アンリエヌの飛び地であると通告。領空侵犯は無かろう。
領海侵犯すれば沈没させ、自然保護条例違反とでも言って巻き上げる。
「釣餌には、そうだな。」
回収した武具、いや青銅にしよう。美術品や工芸品の原料として輸出するなら、怪しまれずに在庫処分可能。
「ヨシッ。」
同盟は結ばなかったが、アンリエヌはタルシェと交易していた。
豊かで美しく、平和な国だったよ。津波さえ起こらなければ再建できたろうに。
民の中には条件付きで受け入れた、タルシェ民族の末裔もいる。先祖の故郷に戻りたいと願う者も居ろう。
遺跡を保護しながら環境を整え、戻る者を募れば良い。
トントン。
「失礼します。ギリシアからの使者が、こちらを。援軍要請です。」
ローマに潜入させていた兵が、アンリエヌの偽情報を仕入れたのだろう。
「ネージュ。」
「はい。」
キリッ
「アンリエヌは動かん。がな、タルシェの領有権と引き換えに青銅をやろう。」
パチクリ。




