16-30 どうしても要る
ムルピア海に浮かぶ小島は多いが無人島で、どの国も領有しない。
となると限られてくる。
「タルシェ。」
「カー様! あの島はイケマセン。タルシェ王家滅亡後、ギリシア辺境地となりました。けれど度重なる天変地異と噴火に伴う火山灰、火山礫によって不毛の地に。全て『タルシェの呪い』とか何とか。」
ブルル。
「詳しいな、リュンヌ。」
「ありがとうございます。」
わぁい、褒められた。じゃない。
「あの島に火山は無いが、葡萄とオリーブが良く実る地。北方にある島の火山が噴火し津波が発生。その後、火の雨が降った。」
ソレはソウなのですが。
「滅亡した王家の遺産は何れ、観光名所となろう。その地下に都市を建設し、一部を避難所にすれば良い。」
「・・・・・・うぅぅん。」
「そう唸るな。」
唸りたくもなる。
タルシェは現在、ギリシア領。ローマなら迷惑料として奪え、じゃなくて譲渡を迫れるが、ギリシアが素直に差し出すとは思えない。
仮に領有権を得たとして、海抜の低い土地。攻め込まれれば逃げ場が無い。そんな地で誰が、どう戦う。ってエッ。
まさか? イヤイヤ、幾ら何でもソレは。
「恐れながら。」
「そうだ。」
やっぱりネ。何となく、そんな気がしました。
ギリシアは今、揺れている。ペルシア帝国の遠征軍とギリシア諸都市の連合軍が睨み合い、戦争を始めたのだ。
直接の原因はペルシアの影響力拡大に対する、イオニア地方都市国家群の反発から起こった、イオニア反乱へのアテナイ介入である。
ペルシア戦争は長期化し、終結しても小競り合いが続くだろう。それはギリシア全域を巻き込んだ大戦となる。
何とか乗り切ったとしても、ローマの東方進出は止まらない。
「ローマに奪われる前にと、お考えですか。」
「そうだ。」
「それまでに、揃うでしょうか。」
新たな一族から生まれた、日光に強い新種は増えるだろう。けれど、それは離宮地下で生まれる子の話。
旧王城地下で生まれたのは弱弱しく、育っても短命に終わる。
死ぬ前に次代を残しても、その子を育てるのは遺族。今の暮らしに不満を抱いても、外では生きられないと分かっている。
だから暫くは動かない。いや、動けない。
「世界征服を夢見たジョド大王が連勝したのは、支配の才を持っていたからでは無い。不死の才を持つエンが居たからだ。私に敵の才を奪わせ、戦場に送り込んだからだ。」
エンを守るために戦った。父王に命じられたから、化け王だから従ったワケではない。
「カー様。」
リュンヌにハンカチを渡され、泣いている事に気がついた。
「ありがとう。」
エンはルーの隣で、安らかに眠っている。
不老不死を願った愚兄と愚姉はエンとルーを、その骸を狙った。才は奪ったが、アレらが変わるとは思えない。
それでも処分できないのは何れ、収集の才を持つダケの私には守り切れなくなるからだ。
化け王城内は歴代、化け王が守る地。譬え才を持って生まれたとしても、化け王の許し無く立ち入れない。けれど他は違う。
だから、どうしても要る。