16-28 幼き者よ、聞け
ジロが隔離されているのは、格納と隔離の才で守られた私的空間。出入り出来るのは化け王だけ。
核兵器による攻撃にも耐えられる、特殊装置に入れられているので何の心配もない。
当初は悶悶としていた。瓶詰仲間は寡黙で、ピクリとも動かないから。けれど己の言葉が聞き取り難いのだろうと前向きに考えた。
それからは一方的に話しかけたり、勉学に励みながら希望に胸を膨らませている。
「あれから、どれだけ経ったんだろう。」
外の様子が分からず、時間感覚が麻痺していた。
「もう、十二になったのかな。」
化け王はアンリエヌの国王で、はじまりの一族の長。会いたいと思った時に会える相手ではナイ。
「いつか父さんと母さんみたいに、思い合える人と会えるのかな。」
ジロは己の体がドウなったのか、何も知らない。ただ人とも、はじまりの一族とも違う生き物になった事は知っている。
「まぁ、なるようにしかナラナイよね。」
ゴチャゴチャ考えてもドウにもナラナイ。それが人生。
「バルト宰相! なぜ止めるのですか。」
エド大王と愉快な仲間が王位奪還を目論み、化け王に裁かれた。とはいえ、その大半は生きている。
だから何も知らない新世代は大王一派を担ぎ出し、新政権樹立を目指す。
「我らは偉大なる化け王に生かされている。それを忘れるな。」
「老害め。」
血の気の多い若者が吐き捨てた。
「はじまりの一族は才を持たぬ民を守るため、大王と化け王を擁立した。」
バルトが語りだす。
「そんな昔話、聞きたくない。」
そうだろうね。
「幼き者よ、聞け。」
旧王城地下に残された倉庫の一角に、古い文献が山積みにされていた。その多くが大王の命により記された勝者の、勝者による、勝者のための歴史。
つまり創作物である。
王城の書庫から地下倉庫に移すよう、側近に命じたのはジョド大王。
先代は王子にも妃にも何も伝えず、甥を質に取って化け王を利用していた。
勿論そんな事、誰も知らない。
「化け王は大王の影でも傀儡でもない。アンリエヌの民を、国を守る盾。」
防御率100%
「ハッ、世迷言を。」
いや違うよ。世迷言とは際限なく続ける、ワケの分からない内容の話。他人には通じない不平や愚痴。
「歴史は勝者によって作られる。」
史実が事実とは限りません。
「道理に合わなくても勝てば正義! 道理に合っていても、負ければ不正なものとされる。それが戦い。」
「解っているではないか。」
バルトが微笑む。
「何を。」
「倉庫に残されていたのは強者の論理。全て、道理に合わない不義。」
ザワッ。
バルトは知っていた。
化け王がアンリエヌを統治するようになって、たった数年で乳幼児死亡率が低下。食料自給率と生活水準が上昇したことで教育水準も上がり、健康寿命が伸びた事を。
アンリエヌの民は皆、カー化け王が不老不死だと知っている。
はじまりの一族、それも才を持つ唯一の存在。覇権主義の戦闘狂、大王から王位を奪ってアンリエヌを救った英雄。
その化け王に牙を剥けばドウなるかも。