16-27 褒められた気がしない
アンリエヌは高負担、高福祉国家。完全予約制だが治療費無料、学費・教材費も無料。平均寿命は六十五年。
五十五歳から支給される年金は、贅沢しなければ暮らせるダケ受け取れる。
五歳から始まる義務教育は初等部四年、中等部三年、高等部三年の十年制。
中等部から専門教育が始まるので、初等部三年までに進路を決めなければナラナイ。
「うわぁん、頭が割れちゃうよぉ。」
ジロに課せられたのはアンリエヌ語の習得。
「こんなに覚えられない。」
覚えるのは、たった二十六文字。
「違うのは判るけど、多過ぎる。」
識字率100%のアンリエヌでは、読み書き計算が出来なければ暮らせない。
「でも、諦めないよ。」
グスン。
「外に出たいもん。」
ジロが机に齧り付いて勉強している間、カーは兄姉の刑期短縮を検討していた。
予知した通りなら次代を望める。けれど三歳で即位させる気も、裏を仕切らせる気も更更ない。
「アレらに務まるのか。」
エド、ジャド、ウィも優秀だ。けれど選民意識が強い。
「民の大半は人。」
魔物は強いが、守り切るのは難しかろう。
「それに。」
水や食料を求め、多くの国が動き出す。
外国に派兵する国の多くがギリギリの状態。飢えた兵を差し向け、扱き使うような国だ。切り捨てなければ守れない。
「あぁ、また来た。」
国境を越えたら死ぬ。分かっていても何も言えず、黙って死地へ向かうのだろう。
「気の毒に。」
若者が多い。
「なぜ話し合わぬのか。」
カーがフラフラと寝台に近づき、バタッと倒れ込む。
ここは化け王城内。不届き者は居ないが、気をつけば終わる。だから気を抜けない。
「闇喰の品など、どこから。」
持ち込まれたモノではナイ。親や兄姉から託されたのか、引き継いだのかボロボロだ。
「浄化しようにも限界がある。」
祝の力が有れば、一瞬で。
「気長に待つか。」
眉唾モノだが次代には、才を超える力がある。それを駆使して多くの命を救い、この国を発展させるだろう。
けれど、そう上手く運ぶだろうか。
「ねぇ! ねぇったら。」
ジロが怒鳴る。
「なんだ、どうした。」
「『どうした』じゃナイよ。」
文字を覚え、小難しいアレコレに挑戦中。ジロ、十一歳。初等過程で足踏みするのは当たり前。
「文字は覚えたよ。でもね、言葉が多過ぎる。何だよ、この言い回し。」
プリプリ。
「黙ってほしいなら『口外するな』って、そう言えば良いじゃナイか。」
さすがコウとツウの倅。理解が早いようで何より。
「その調子だ。」
「褒められた気がしない。」
ムスッ。