16-26 新たな扉
はじまりの一族が建てた国、アンリエヌには大王と化け王が居る。表を治める大王は、裏を治める化け王に逆らえない。
民は知っている。
収集の才を生まれ持つ化け王は、その生を終えても全てを引き継ぐ。
武力や権力で国力を維持する大王と違い、叡智に富む化け王は思いやりの心で国を発展させると。
「・・・・・・。」
姿形は違っても化け王は化け王。顔が平たくても幼児体型でも、どう見ても子でも構わない。
「申せ。」
「ハッ。化け王城に御籠り遊ばすのは、その御体を守るためでしょうか。」
「そうだ。」
化け王が王位を奪うのは、大王の愚鈍さに耐えられない時。
化け王の治世は平和そのもの。長く続いてほしいが残念ながら、化け王は短命で在らせられる。けれど当代は不老不死。
なのだが一体、何が。
いや待て。大王の治世に宰相を務めていた私を認め、新たな一族を纏める役目を与えてくださった。その賢王が為さる事。
「バルト。変異種が大半を占めても、新たな一族を統制せよ。」
「仰せのままに。」
化け王に裁かれた王族は才を奪われ、旧王城地下に幽閉されている。才を失った王族は、化け王に保護されなければ生きられない。
収集の才を生まれ持つ化け王には逆らえない。王族でも民でも皆、同じ。
「数年で戻る。」
「ハッ。」
この体に秘められた力は強い。全ての細胞が再生するまで、どんなに早くても五年はかかろう。
焦ると腐敗し、無に帰する。
「またか。」
アンリエヌの国境を越えれば、瞬時に捌いて格納される。隊商が来たと思えば良いのだろうが、こうも続くとウンザリしてしまう。
「どうしたモノか。」
倉庫に空きがある。才を使えば幾らでも入るから、生物でも気にしない。
「取り敢えず、仕分けるか。」
ソレが済んだら、一から教育を施そう。」
ジロでなくても、ただ待つのは難しいモノ。
ここ数年、静かなのは飢饉に見舞われたから。
援助を求めれば良いのに派兵し、多くを失っている。だから可能な限り、叩き込まなければ。
いつか生まれる後継に全てを託すため、準備を進めてきた。けれど、この器。思った以上に幼い。
「喜べ、ジロ。新たな扉が開くぞ。」
「トビラ。ここから出られるの?」
「いいや。」
「なぁんだ。」
プイッ。
ジロを体に戻さないのは、人には耐えられない痛みの所為。九割以上、再生されなければ戻せない。
もし今、戻せば死ぬだろう。
とはいえ、長らく待たせて良い事はナイ。解っているのだが、ドウにもナラナイ事もある。
「明日から授業を始める。しっかり学べ。」
「ジュギョウって何。」