16-25 未来は変わる
瓶詰されたジロが自主訓練を始めた頃、新たな一族が突然変異種を起こした。
短命とはいえ適応力に優れており、数十年後には地上に出るだろう。
「横穴でも掘ったか。」
新たな一族を残すため、化け王に忠誠を誓った宰相フリツの倅、バルトが膝をつく。
「申せ。」
「ハッ。」
化け王に隠し事なんて出来っこない。腹を括ったバルトが言葉を選びながら、ありのままを報告。
新たな一族は減りに減り、その血が濃くなった。結果、乳幼児の死亡率が上昇。
旧王城地下で暮らす新たな一族は、化け王の慈悲に縋って生きている。
飢えはシナイが少ない食料を、死ぬと分かっている者に与えられない。そう考えた者が未熟児や奇形児を古井戸の底に放置。
大半が消滅したが、日光に耐性を持つ個体が確認された。
「曇天下、短時間なら耐えられると。」
「はい。」
未来は変わる。以前、予知した事と違っていてもオカシクない。
ジロを救った事で大きく、何かが動いたのだろう。丸きり違っていた。
それらは日光を浴びると砕氷のように輝くので、一目で人類ではないと判る。旧族には劣るが敏捷で俊敏。
「古井戸は刑場として残す。」
「宜しいのですか。」
「上りきっても力を奪われ、落下するだけだ。」
「はい。」
古井戸の上に置かれた金属網は、新たな一族から力を奪う。それも一瞬で。
旧王城地下に居れば、少なくとも飢えて死ぬ事はない。けれど地上では、地上に出れば処分される。
当代は歴代最強と謳われる化け王。
大王から王位を奪い、実兄や姉を追い詰めた。謀反を企て実行に移した事を確認してから、迷うことなく処分。
それら全て、計画通りだったのだろう。眉一つ動かさずに遣って退けた。
「変異種も新たな一族と同じ、生き血を啜らなければ生きられぬ。ならば考えるだろう。どうすれば長く生きられるのか。」
考えた結果、横穴を掘るのを止めた。
「新たな一族もアンリエヌの民だが、人との共存は難しかろう。」
「・・・・・・はい。」
新たな一族にとって、人類は食料。飢えや渇きを癒す生き物でしかナイ。
「他は塞いだが、生き埋めになっても戻った者が居るのだな。」
「はい。両名とも古井戸に押し出し、その命でもって罪を償いました。」
もし化け王城の特別牢に入れていたら、消滅するまで生体実験を繰り返していただろう。
曇天でなくても歩き回れる、そんな生き物を作り出すことに成功していたカモしれない。
あの地下空間で変異種が、今もポコポコ生まれている。
娯楽のナイ世界で生きているのだ。他にヤル事がないし、ひ弱に生まれた子を処分しても責められない。だから増える。これから、もっと増える。
「アンリエヌの民で居たいなら、解るな。」
「はい。我ら新たな民は、その命を懸けて法令を遵守し、化け王に服従いたします。」
バルトが立ち上がり、胸に手を置いて断言。その言葉に嘘、偽りは無い。