16-23 思っていたのと違う
ジロの体を乗っ取り、はじまりの一族の血を注入。と同時に不死の才を発動。
傷が塞がると骨や内臓を再生し、不老の才を発動してから脳機能の矯正を開始。
「もう嫌だ。」
時が経ち、己が瓶詰されている事に気付いた。どんなに叫んでも暴れても、体当たりしてもビクともシナイ。
「外に出たい。」
飢えや渇きとは無縁だが時折、無性に眠くなる。
「ココにある目とかイロイロ、人のだよね。」
はい、その通り。
アンリエヌに攻めてきた兵やアンリエヌの民を害そうとした者、不法入国やら何やらヤラカシタのをサクッと処分。
キチンと分別して保管した全て、新たな一族の食料や研究材料として有効活用される。
勿論カーの体や兄姉から採取した血液は、この倉庫から隔離された別空間にあります。
出入りできるのは化け王だけ。
「何て言えば良いんだろう。グルっとさ、囲まれてる感じがするんだ。」
ジロが入れられた瓶は倉庫の中央、特設台に据え置かれている。美術館に展示されている宝石のよう。と言えば、お分かりいただけるだろうか。
はじまりの一族は人とは違う生き物なので、全ての細胞を再生させ、馴染むまで想像を絶する痛みを伴う。
だから瀕死の重傷を負ったジロを体から切り離し、異空間に保管しているのだ。
「いろんなモノを見たいと思ったけど、思っていたのと違う。」
そうだろうね。
「また剣とか見た事ないの、増えたし。」
ジロがウトウトしている間も、新しいモノが入ってくる。すべて強国の兵や持ち込まれたアレコレ。
アンリエヌに奇襲をかけても進撃しても一瞬で、跡形もなく消え失せる。なのに強国は挙兵し、国境線を越えて消滅。
「何にも聞こえないし。」
特別仕様の格納庫だからネ。
「誰も来ないのに減るし。」
兵糧は支援物資に、武器弾薬はバラバラにして再利用される。
その地質・地形・気候に起因して土壌の肥沃な土地が少ない山地の国だが、アンリエヌが原料や資源に困る事はない。
「これって『死んでいない』だけで、『生きている』って言えナイよね。」
難しいコト考えるね。
「誰かと話したり食べたり寝たり、走り回ったりイロイロ見たり聞いたりする。そういうのが『生きる』ってコトなんじゃない?」
心臓も脳も正常に動いているが、ジロは思うように動けない。
「そう思うんだ。」
瓶の中で膝を抱え、シクシク泣き出した。
人に耐えられる痛みなら、ジロを体から離さなかっただろう。けれど、どう考えても耐えられない。
戻せば心臓が止まる。
「そう悲観するな。」
「ヒカンって何だよ。」
「望みを失って、悲しむな。」
「・・・・・・望み?」