16-22 生きたいか
大きい! アレが熊か。ノソノソと歩いているケド、イノシシより強いんだよな。
もしアレを狩れたら、きっと皆から認められる。そしたら戻って、キチンと謝ろう。
「エイッ。」
弓に矢を番え、放つ。
「あれ?」
飛ぶには飛んだがポトリと落ち、熊と目が合う。
「ヒッ。」
迫力満点。
「く、来るなぁぁ。」
と言いながら背を向け、転がるように駆ける。
「グヲォォ。」
熊と目が合ったら慌てず騒がず、ゆっくり後退りましょう。決して背を向けてはイケマセン。
死んだフリ? そんなの通用しませんよ。雑食性ですから。
嗅覚・聴覚が鋭く、木登りや泳ぎを得意とする熊から逃げられると思わない。コレ大事。
うつ伏せになって首の後ろで手を組み、熊が離れるまでジッと耐える。熊よけスプレーは最終手段。これ重要。
「・・・・・・し、ぬ。」
のかな。
「さ・・・・・・むぃ。」
乱雲山で熊に出くわす事は少ないが、もし熊を見つけたら静かに後退れ。どんなに怖くても叫んだり、背を向けて走るな。
そう言われた事を思い出す。
熊と目が合ったジロは叫び、背を向けて走った。だから追いかけられ、大きな鉤爪で攻撃されてしまう。
結果、致命傷を負った。
「愚かな子だ。」
戦場なら魁や殿を務め、手柄を上げて出世するだろう。
「た・・・・・・。」
助けて。死にたくない。
「ホウ。」
特性持ちなど避けたいが、才を使えば矯正可能。
「お・・・・・・がぃ・・・・・・。」
お願いします。
母さん父さん、ごめんさない。ミツ、ゴロにも会えなくなるんだ。
御山から出たら長く生きられない。もう戻れないって幾度も、幾度も言われたのに。
あぁ、もう何も見えない。
いろんなモノを見て、聞いて、強くなりたかったんだ。なのに熊に襲われて、このまま食われるのかな。
「生きたいか。」
はい。
「人とは違う生き物になっても、それでも生きたいか。」
生きたいです。
エッ、痛っ。痛い痛い痛い苦しい、潰れるぅ。
「うわっ。」
何だココ。
「ギャッ。」
目、目、目、目、目。
「ギャァァァァァ。」
怖い怖い怖い、ココから出せぇ。
「・・・・・・透けてる。」
死んだ?
「完治するまでソコに居ろ。馴染むまで五年、いや六年か。」
カンチってナニ。
「『いろんなモノを見て、聞いて、強くなりたかった』のだろう。喜べ。その願い、叶うぞ。」
こ、こは。
「アンリエヌ、化け王城だ。」
へっ。




