16-17 何が可笑しい
アンリエヌは大陸西部、中央に位置する強国。
『はじまりの一族』は『はじまりの隠神』より先に現れた。その王が治める国が他より劣っているワケが無い。
「何が可笑しい。」
ブランを見たダケで動けなくなった小物が問う。
「迎えが来たようだ。」
右から左へ受け流し、姿を消した。
残された小物は崩れるように倒れ、ユックリと起き上がる。
時間を掛けた理由は一つ。決して逆らってはイケナイ、背を向けたら終わり。そんなのがスッと現れ、ニッコリと微笑んだから。
「ごっ、ゴロゴロさま。」
雲井神の使わしめ、ゴロゴロ参上。
「言い残した事は。」
猫又に問われ、小物が分かり易く怯える。
「ありましぇん。」
ガクガク、ブルブル。
雲井社の屋根で日向ぼっこをしていた。
気持ちよく微睡んでいたのだが、二本の尾が気配を察知。ピョンと飛び降りタッタと駆け、現場に急行。
「食おうとしたのか。」
少し先で項垂れているジロを見つけ、低い声で問うニャンコ。その目は冷たい。
「はい。いいえ、違います。」
慌てて言い直し、ニッと笑う。
「何が違うのかハッキリと、短くまとめて言え。」
ジロがブランさまに、いや違う。化け王が探し求める『何か』をジロが、コウとツウの倅が持っている。
だから御姿を消し、見守っておられたのだ。
「コン、頼む。」
「狐づかい、荒いなぁ。」
と言いながらモフンと参上。
「あぁ、行っちゃった。」
と言いながら小物を炙り、縛ってから深呼吸。
「クラ。コチラの獄より、ソチラの獄がよかろう。」
「そうですね。」
雲井社の禰宜、クラが微笑む。
急ぎ雲井神、大蛇神にも御知らせせねば困った事になる。小物の事はコンとクラに、和山社への先触れをキラに任せよう。
・・・・・・行きたくない。
怖い、恐ろしいよ。でも良山、良村に行かなければ守れないんだ。胸を張れ。
「イザとなれば目を潤ませ?」
犬を飼っておられるマルさまに、猫のキュルンは通じるのか。
「えぇい、迷うなゴロゴロ。」
和山社は隠の世、和山の頂に。大蛇社は人の世、良村の中に在る。
二社は大蛇神の御力で繋がっており、先触れを出して許されば通される。のだが、ゴロゴロが選んだのは大実社。
大実社は良山の中にある石積みの社。人の世と隠の世を繋ぐ道の管理を大蛇神から任されており、とても清らで過ごし易い。
朝夕、清められているのでピッカピカ。
「ごめんください。」
キチンとお座りして、ニッコリにこにこ。
「はい、ただいま。」
良山は昔、大実山と呼ばれていた。夏の暑い日でなければ凍えてしまうので、一人残らず山を下りてしまう。
大実神が小石ほどの大きさに御なり遊ばした時、早稲から引っ越してきたのがシゲたち。




