16-15 そりゃ見捨てられるよ
父さんに捨てられた。いや違う、見放されたんだ。ずっと、ずっと言い付けを守らなかったから。
言い付けを破って、他の子に怖い思いをさせた事もある。その度に獄に入れられ、叱られてきた。
なのに、どうしてだろう。
「忘れるんだよ。」
言い付けを守ろう、良い子になろう。そう思うのに。
「長く生きられない、か。」
ハハッ。
「そうだろうな。」
乱雲山に居れば、この山でなら長く生きられる。山を出れば長く生きられない。熊に襲われる。他と違う姿をした『何か』に骸を奪われ、隠にもなれない。
もう戻れない。それでも、どうしてだろう。諦められないんだ。
「母さん、父さん。許して。」
ゴロとミツが生まれた時、思ったよ。ずっと守ろうって。なのにさ。
「頼れないよな。」
先に生まれたのに、二つも大きいのに。
「まぁ、二人も残るし。」
こんなのが居なくなっても、なんてね。
見えない何かに見られている。鳥、かな。羨ましいよ。この背に翼があれば、どこへだって飛んで行けるのに。
霧雲山に天霧山、良山にも行ってみたい。もっと遠く。神成山とか畏れ山とか、南も良いな。
海だっけ。暴れ川ってのを下れば行けるんだろう?
「もう会えないんだよね。戻れないんだよね。」
それでも諦められない。
「この目で見たいんだ。」
御山の外に何があるのか。
「この耳で聞きたいんだ。」
御山の外で暮らす人から、いろんな事を。
「知りたいんだ。」
御山の中では知る事が出来ない、何もかも全て!
出よう。いや待て、いけない。言い付けを破れば戻れなくなる。母さんにも父さんにも、ゴロにもミツにも会えなくなる。
隠になれば戻れる、のか。体を奪われても隠になれるのか。隠になれなければ、ずっと。・・・・・・そんなのイヤだ。嫌だイヤだ!
嫌なのに止められない。
「ははっ、アハハ。そりゃ見捨てられるよ。」
捨てられる、見放される。それってさ、見捨てられるのと同じだよな。
「あぁ、あっ。」
脱力し、見上げるジロの目に映るのは闇。その闇に潜む『何か』が光った。
羽音も立てず飛び立ち、主の元へ急ぐ鳥の名はブラン。行き先はアンリエヌ、化け王城。
はじまりの一族はバケモノ。命を吸って生きるバケモノ。魂を命に絡めながら一滴残らず血を吸う事で、すべてを奪う事が出来るバケモノ。
その生き残りはカー王を含め、たった四人。
化け王の兄姉は命が吸えず、生き長らえるために血を糧にした。その結果、吸血鬼となる。
才が無ければ命が吸えないと知った兄姉は、王位奪還を試みるも失敗。旧王城地下に幽閉されたが、新たな一族を生み出す事には成功。
再度、史上最強の化け王に挑んで敗北。
姉弟は全身の血を抜かれ、旧王城地下の壁と柱に塗り込められた。残された新たな一族は今も、化け王に養われている。
収集の才を持つ化け王は短命だが当代、カー王は不老不死。もう次代は望めない。
はじまりの一族だけが持つ『才』と呼ばれる特殊能力を奪ったのは、それが歴代の悲願だから。