16-14 あの子が選び、進む道なら
良山には良村があり、いろいろな里や村、国とも繋がっている。何より強いのが腕っぷしではなく、頭で戦える商い人だ。
だから守るため、狩り人か釣り人がつく。
良村には犬好きが多いのか、狩り人でなくても犬を飼っている。
良村の犬も人と同じ、早稲の生き残り。一匹で十人ほど死なせると言われる、早稲の犬より強くて賢い。
見えないモノが見えるのだろう。吠えて遠ざけ、飼い主を守る。
首に布を巻いている犬を見たら、そんな犬を連れていたら良村の人。手を出せば命が無い。だから布を巻いていなくても、犬を乗せた舟は避けられる。
舳に座っていたら十中八九、良村の犬。
「良村の犬は賢い。言い付けを守れない、禍を齎すようなモノを遠ざける。」
「はい。」
「人でも隠でも同じ。犬が吠えたり唸れば、何も見えなくても引く。」
「はい。」
「良村は獣谷の隠れ里と結び、忍びとも結び、遠く離れた地で起きた事も知っている。釜戸山の灰が届く地の事も、霧雲山で何が起きているのかも。」
霧雲山を出入りできるのは、祝辺の守から認められた谷河の狩り人。木菟、鷲の目と呼ばれる忍び。
そんな山の事も知っているなら乱雲山、天霧山の事も知っているだろう。
ジロにはツウから、あの鏡を受け継いだ。
見た事、確かめた事もない。けれど、そう思っている。だから祝辺の守に、霧雲山にダケは渡せない。奪われてはイケナイ。
「朝日のように輝く髪と、夜空のように輝く目を持つ誰か。」
「こっ、コウ。」
「ミツが見たのです。その誰かにジロが、体を奪われるのを。」
アンリエヌ化け王は、ずっと昔から霧雲山を見張っている。いや見守り続けている。臣を鳥の谷に住まわせ、何かを探しているようだ。
使わしめでも近づけない、忍びでも入れない良山に入るのをキラが見た。それからも鳥の谷で見たと言うから、きっと見つけられないのだろう。
そう思っていた。
「コウ。」
「わかっています。ジロが言い付けを破り、獄を出ても追いません。あの子が選び、進む道なら。」
死ぬと、体を奪われると伝えても信じようとしない。そんな子に何を言えば、どう伝えれば良いのだろう。
これまで諦めず、見捨てず向き合ってきた。なのに、それなのにジロには届かない。響かないんだ、何も。
この山の隠、妖怪が言っていた。鳥の谷で白く、大きな鳥を見たら逃げろ。その鳥は姿を隠せる。目を付けられたら終わりだ、狩ろうとするな。戦わずに逃げろ。
「他とは違う姿をした誰かは、姿を消せる白い鳥の。」
「そうだ。」
ジロは化け王に、その体を乗っ取られる。いや違う。獣に襲われ死にかけているジロを救うため、その力を揮われれるのだろう。
体を奪わなければ助からない、そんな傷を負って。
いつだったか出雲で聞いた。化け王は老いない、死なない。けれど新しい器を、次の王を探していると。
もし真なら、その器がジロ?
「体を奪われたジロは、どうなるのでしょう。」
「骸に隠が入れば妖怪になる。数多の隠が入れば強く、長く生きる。」
「強い力を持つ『何か』に奪われれば、人とは違う『何か』として生き続けるのですね。」




