16-13 冷たいようだが
ミツとゴロが生まれ持つ力は強い。ツウとコウの子だ、他と違うのは当たり前。何よりツウは天つ神に選ばれ、御力を賜ったのだ。
その力を受け継いだのはジロ。
「ゴロゴロさま。ジロは言い付けを破り御山から、乱雲山から出るでしょう。」
「ウム。」
「きっと、そう長く生きられない。」
だろうな。
「死ぬと分かっていても、あの子は。」
この山を出る。
己は和みの長。ツウとミツ、ゴロと別れなければ出られない。ジロを守れない。五人で出て、どこへ。
三鶴は変わった。けれど、だからって稲田には戻れない。川田に頼るか? それも難しいだろう。
祝辺の守。人の守は霧雲山から出ない、いや出られない。けれど隠の守は違う。
霧雲山の統べる地なら烏に乗って、急ぐなら隠の世を通って飛んでくる。
何があってもツウは、ツウだけは守り抜く。けれど守れない。ツウを守りながらミツ、ゴロを守って戦う力なんて無い。
そんなに強くナイ。
「コウ、顔を上げろ。そんなに思いつめるな。」
ツウが泣くぞ。
「ジロは子だが、もうすぐ十二になる。社に呼び、祝の前で選ばせる。」
「はい。」
釜戸山から託されるのは、他の山には頼めない子たち。祝の力を生まれ持つ者、授けられた者。祝の力とは違う、強い力を生まれ持つ者。
中には天つ神に選ばれ、御力を授かる子もいる。ツウのように。
もし稲田を飛び出したツウが、稲田を出たコウと会わなければ。
早稲のタツに狙われたコウが、ツウを守りながら狩り小屋に辿り着かなければ。そこに川田の狩頭が居なければ。
三鶴の長がツウ探しを早稲ではなく、玉置に頼んでいたら。ツウを探しに出たのが犬好きの釣り人、ノリで無ければ。
ゲンが隠れ里を獣谷に作らなければ、シゲが会いに来なければ。居なくなった子を探すのに、他の狩り人から頼られなければドウなっていた。
シゲもノリもタツを庇わず、縛って突き出した。
釜戸の裁きを受けたタツは、痛めつけられてから獣谷の仕置場に放り出された。生きたまま熊に食われ、死んだ。
コウとツウを狙っていたのはタツだけじゃない。二人が稲田に居た時から、三鶴の長が鼻の下を伸ばす前から祝辺の守も動いていた。
だからツウが逃げ遅れていたら、三鶴の長が早稲を頼らなければ、早稲の長が『他所の』人を使わなければ違っていただろう。
「ジロが良山の。いいえ、そんな事は望めません。けれど誰か、あの子が獣に襲われる前に。そう、考えてしまうのです。」
シゲは夢を叶えるため、釜戸の祝に願い出た。
早稲の人から酷い扱いを受け続け、『早稲の他所の』人として村外れで暮らす。その生き残りと、親から託された宝を連れて早稲を出たい。この地に新しい村を作る許しが欲しいと。
釜戸の祝から許され、作ったのが良村。大実山は良山になり、少しづつ豊かになった。
子は親から託された宝。そんな村だから釜戸社は、言の葉が出ない子を託した。その子が大蛇神の愛し子、マル。
「あの山は強く、祝辺の守でも手を出せないからな。」
加えてマルの力で清め、守られている。
「はい。」
「コウ。冷たいようだが、もう諦めろ。」




