16-11 そんなに嫌なのか
どんなに慈しんで育てても、歪んで生まれればドウにもナラナイ。生まれつきのワルは、どんなに手を掛けても腐る。
早稲には、そんな人が多いと聞く。
早稲に逃げ込んだ人を匿い、村外れに追いやって『早稲の他所の』人と呼ぶ。男は戦に駆り出され、女は言えないような扱いを受ける。
死ぬまで。
「タツ。」
谷底で会った時、思ったよ。悪い男だと。釜戸社で裁かれ、獣谷の仕置場で死んだ。
「同じだと思いたくない。」
向こう見ずなのは同じ。けれどジロは今のところ、誰かを傷つけたり騙したりシナイ。が、そのうち。
雲井社の西にある獄は大きく、他より強く建てられている。近くに村も家も無いので、騒いでも暴れても誰も来ない。
「嫌だ、怖い。出してよぉ。」
柱に括りつけられたジロが叫ぶ。
「どうして獄に入れられたのか、わかるか。」
「わかんないよ。ノブさん、お願いだよ。」
他とは違う子だ。祝の力か宝の力を持って生まれ、村や山を守るだろう。そう思っていた。けれど今は、人とは違う生き物に見える。
コウもツウもジロを御山の外に出さず、閉じ込めようとしている。けれど、きっと思うように運ばない。
ジロは十二になる前に黙って抜け出し、この山を出るだろう。
コンコン。
「入るよ。」
コウが獄に入ってきた。
「決まったのか。」
「あぁ。」
ノブに問われ、力なく答える。
「父さん、助けて。」
「・・・・・・ジロ。夜に出て、谷に落ちるとは思わなかったのか。死ぬとは思わなかったのか。」
ゴロに止められたのに、そのまま山を下りようとした。ミツの先見を聞いたのに、それでも山を出ようとした。
どうして、いや違う。そんなに嫌なのか? この山での暮らしが。
乱雲山。霧雲山の統べる地に聳えるが、祝辺の守でも入れない山。
良山とは少し違うが、許し無く入れば何も残らない。そんな山で生まれ育ったのに、他より暮らし易いのに『出たい』と言う。
何を考えているのか、どんな気持ちなのか分からない。外に出れば戻れないのに。
「外に何があるのか知りたい。見たい、聞きたいんだ。だから、あれ?」
『十二まで待つ』って決めたのに、どうしてだろう。
「言い付けを破って飛び出したのに、助けてもらえると思っているのか。」
助けてくれた、よね。
「十二になれば、認められれば出られるのに。どうして待てない。待とうとしない。」
「それは、その。」
オカシイ。どうして、こんな事になったんだろう。
ゴウとミツに止められても、父さん母さんに叱られても諦められない。諦めちゃイケナイ。そんな気がするんだ。心の底から何か、分からない何かが聞こえるんだ。
この山の外には見た事、聞いたコトもないモノで溢れている。確かめたい。この山に居れば見られない、分からないモノを知りたい。その全てを分かりたい。
「十二になるまで待てないのか。」
父に問われたジロがキョトンとし、瞬きしてから首を傾げた。