16-10 おやおや、またかい
諦めたんじゃない! 待つ事にしたんだ。
十二になれば好きに生きられる。この山から出ても、もう誰にも何も言われない。雲井の祝に言ったら叱られるから、まだ何も言ってないケドさ。
「おやおや、またかい。」
雲井の社憑き、使い烏のキラが呟く。
「何だい、またって。」
雲井の社憑き、使い狐のコンが問うた。
「ジロが言い付けを破ったんだろう。」
雲井神の使わしめ、ゴロゴロ登場。
雲井の三妖、揃い踏み。
ココは雲井社、ではなく人の世と隠の世の境。このまま進めば間違いなく、肉食系妖怪に食われるだろう。
「軽く痛い思いをさせるか。」
少し先に潜む、猪の隠を見つめてポツリ。
「ゴロゴロさま、それは。」
あの猪、多くの傷を負っている。きっと人を強く、強く憎んでいるだろう。
「アッ、いけない。」
ジロの姿を見て、近くの隠を取り込み始めた。
「・・・・・・うん、止めよう。」
とはいえ困った。ジロには見える目、聞こえる耳もない。コウとツウの倅なのに。
「ゴロゴロさま、あのシシ。」
コン、大慌て。
「キラ、コウを。」
「ハイッ。」
雲井の三妖怪、本気を出して威嚇。
他の隠を取り込むも妖怪化に失敗し、消滅した猪が叫ぶ。その声は見えない、聞こえないジロにも届いた。
「えっ、何これ。耳が痛い。」
鼓膜が破れる事は無い。けれど暫くの間、耳鳴りに苦しむだろう。
「何だよ、何なんだよコレ。」
耳を押さえながら蹲る。目に薄っすらと、涙を浮かべながら。
「痛い。痛い、痛い、痛い。」
タダの耳鳴りでは無い。妖怪化に失敗した隠の断末魔が、すぐ近くにいたジロの鼓膜をガンガン叩く。
またか。幾度、言い聞かせただろう。他の子と比べたくないがジロは、恐ろしくなるほど幼い。幼すぎる。
「人の子だ。」
「美味そう。」
「ピギッ。」 コウダ。
「ブヒィィ。」 ニゲロォォ。
大きな音、違う。アレは獣の声だ。それで耳が痛くなって、耳を塞いで。それでも痛くて耐えられなくて、屈んで小さくなって。
それで、それで・・・・・・。
「うぅぅん。」
ココ、どこ。
「起きろ、ジロ。」
水をバシャンと掛けられ、飛び起きた。
「何すんだよ。ゲッ、父さん。」
「何が『ゲッ』だ。ほれ、見ろ。」
視線の先に転がっていたのは、大きな猪の骸。
「くっ、腐ってるぅぅ。」
オカシイ。山の中で倒れたのに、ここには何も無い。猪の骸はあるけど木とか、木とか木とかが無い。それに何も聞こえない。
あれ? 死んだ、のかな。
「ジロよ、ヌシは和み村を。いや、止そう。」
コウがジロの手足を縛り、肩に担いで歩き出した。




