16-9 死ぬって決めるな
何だよ。この山から出たら死ぬって、乱雲山でしか生きられないって言うの? そりゃ悔しいけど、ゴロより弱いさ。認めるよ。
でも、だからって。
「ワシがヌシを狩りに連れて行かないのはな、言い付けを守らないからだ。言い付けを守らず突っ走り、いつも禍を齎す。」
そんなコト・・・・・・も、あったね。
「痛い思いをしなければ分からないなら、痛い思いをさせれば良い。そう思った事もあったが、直ぐに考えを変えたよ。」
どうして、そんな顔をするのさ。
「十二になるまで待て。それまでは親の言い付けを守り、一人でも暮らせるように学べ。食べられる物と食べられない物、飲める水と飲めない水の違い。煮炊きや縫物、身を隠したり守る手立て。他にもあるぞ。」
そんなの、どうにでもナルでしょう。
「甘い。」
何が。
「人の話を終わりまで聞けないヤツは死ぬ。どんな話にも得るモノがある。」
えぇぇ。
「冷たくなった倅の骸を、獣に食われた倅の、傷ついた骸を葬る親の身になれ。」
死ぬって決めるな。
「谷に落ちれば助からない。この山は、そういう山だ。」
ハイハイ、そうですね。
「これまでも幾人か、言い付けを破った子が居た。」
あぁ、また始まった。
ふぅ、疲れた。
狩りの話や外の話なら喜んで聞くけど、堅苦しい話なんて聞きたくない。咎められるのは、もっと嫌なモンさ。だから黙って聞き流す。
「うん、良い夜だ。」
明るいウチだと狩り人や樵、他の村の人に見つかる。だから待った。まん丸い月の夜なら、そんなに暗くナイもんね。
「兄さん、戻りなよ。」
ゲッ。
「そんなに死にたいの。」
「死なねぇよ。」
決まりを、言い付けを守れないヤツは早く死ぬ。だから父さん母さん、村の人たちも言うんだよ。なのに兄さん、ちっとも分かろうとしない。
考えるのを止めたのか、考える頭が無いのか。
ドチラでも良いけど、このまま行かせるのは良く無い。だから声を掛けた。
なのに何だよ、その顔は。コッチだって嫌だよ。でも母さん、父さんを悲しませるなら言う。嫌われても伝えるしかナイんだ。
「ミツの先見。」
「覚えている。この山を出れば死ぬけど、長く生きられるんだろう? 良いじゃないか。」
「何が。」
「何がって、ん。」
死んだら生きられない、よな。
「やっと気がついた?」
「何だよ。」
ミツの先見は外れない。
雲井の継ぐ子にって話が出ても、ちっとも驚かなかった。フクさまの力とは違うから祝にはナレナイけど、祝女として生きるだろう。
ゴロは父さんの跡を継いで村長になるか、ノブさんの跡を継いで狩頭になるだろう。ケッ、羨ましいぜ。
「行きたきゃ行けば良いさ。でもね、夜に出るのは止しな。谷底に落ちるよ。」
「煩い! 分かってる。」
「なら、どうして。」
家出スタイルで何を言っても、説得力ゼロ。