16-8 親より先に逝くな
あるの? この体にも眠っているダケで、宝の力が!
「ンググムグ。」 ソウナンダ。
「喜ぶのは早い。」
何だよ。
「今は守られているが、御山の外に出れば攫われるぞ。祝辺の守に。」
何で?
「分からんのか。」
うん。
「他とは違う『何か』を持って生まれた子はな、ソレを持たない『誰か』から狙われる。コウは早稲のに狙われた。」
早稲って、ずっと南にある村だよね。長が変わる前は、とても悪い村だったトカ何とか。
「霧雲山は幾つもの山が合わさって、一つの大きな山になった。ソレを守るには祝辺の守の他にも、強い力を持つモノが要る。」
だろうね。
「・・・・・・人柱。生贄。」
ヘッ。
「生きたまま死ぬ、殺される。」
ゾゾゾッ。
嫌だよ、そんなの。
でも死ぬまで出られないのは、山の外を知らないまま死ぬのは嫌だ。もっと嫌だ。だから誰に止められても、閉じ込められても飛び出してやる。
霧雲山か、イイじゃないか。どんな山か知らないケド、他じゃ見られないモノ、知らないモノがイッパイあるんだろうな。
見たい! 行きたい。
「ジロ。外に憧れるのは良いが、今のままじゃ長生き出来ない。嫌な事でも力いっぱい取り組んで、そこからイロイロ学べ。」
何だよ父さん、居たの?
「ありがとう、ダイ。」
ワシが生まれ育った北山は、それはもう悪い国だった。だから生きるため、生き延びるために飛び出したよ。
ツウが飛び出したのだって、三鶴から逃げるため。稲田の村長が三鶴の長から娘を守るために弱い家の娘、ツウを売った。
詳しくは知らないが移り住んだから、稲田の中では弱かったらしい。だから断れなかった。だから逃げた。
それで死ぬ事になっても、穢されるより良いと考えて。
コウは前から稲田を出ると決め、いろいろ備えていた。爺さまから教わった事、全て活かして。
だからツウが逃げたと聞いても驚かず、探すフリをして村に戻った。その夜、村を出たのも前から決めていたから。
ツウを見つけて、その姿を見て思ったらしい。『助けたい』と。
「じゃあな、ジロ。」
「ング、ムググッ。」 ナワ、トイテッ。
ツウに宝の力は無い。無いが天つ神より何か、大きな力を授かった。それは鏡の形をしていて、ツウの体に入っている。いや、入っていた。
「なぁ、ジロ。」
「ムグ。」 ナニ。
「そんなに出たいか、この山から。」
「ングッ。」 デタイ。
「イノシシを見て腰を抜かし、カノシシも狩れない。罠は張れるが、獲れるのは兎や鳥。」
だから何だよ。
「祝辺の守はな、霧雲山を守るためなら何だってする。祝の力を持つ子を集め、薪を焼べるように使うだろう。」
エッ、そんなの嫌だ。
「分かっておくれ、ジロ。ツウもワシもヌシに生きてもらいたい。親より先に逝くな。」




