16-6 持って生まれたヤツとは違うんだ
どうして、どうして分かってくれないんだ。この山の外に出たいダケなのに。それダケの事なのに、どうして認めてくれないんだよ。
二つ下のゴウは五つから、父さんと狩りに出ている。狩頭のノブさんからも、いろんな事を教わって楽しそうだ。ゴウもミツも宝の力を持っている。
父さんに似たから、だから現れたのか。
・・・・・・母さんに似たから、ずっと。
そんなの嫌だ! だから出たいと思ったダケなのに、誰も分かってくれない。
何を言っても誰に言っても『そうか』とか、『もう少し大きくなったら』とか言って、笑いながら頭を撫でるだけ。
そんなの要らない。そんなの、ちっとも嬉しくない。
ダイさんノブさん、ケイさんケンさんも父さんの子だからって、村長の倅だからって庇い過ぎなんだ。
「ジロ、悪く思うな。」
狩り人に向いてナイって、そう言うんだね。
「夏の熊はな、人を襲う。」
だから何だよ。
「この山にも熊が居る。」
そうなんだ。
「見た事、ないだろう。」
「ングッ。」 ナイッ。
「コウが狩るからな。」
父さんは強い。幼子の時から爺さまに、いろいろ教わったと聞いている。その爺さまがジロ。他の里や村、国の狩り人からも認められていた。その孫が父さん。
だから賢くて強い。
母さんの父さん、兄さんも狩り人じゃない。みんな田や畑で、他の人と働いていた。どこか遠くの里だか村から移り住んで、思った事も言えない。
そんな扱いを受けていたとか何とか。
「あのな、ジロ。乱雲山は強い力で守られている。霧雲山の統べる地に聳える、他の山よりも強く。」
・・・・・・。
「釣頭だからな。商い人を守るために、狩り人と三人で出るんだよ。」
そうか! 狩り人にならなきゃ出られないと思っていた。けれど釣り人に、釣頭になれば出られるんだ。
「そんな目をして。」
ダイが溜息を吐く。
ジロは幼い。コウやツウが叱らず、甘やかせて育てたなら解かる。けれど違う。他の子と同じように育てたのに、ジロだけが危ういまま、体だけ大きくなった。
誰でも十二になれば選べる。
今のまま外に出せば、もって三日。その日のうちに死んでも驚かない。
だから他の子より厳しくしているのに、『山から出たい』と言うだけで、ちっとも変わろうとしない。
「コウが強いのはジロさんの孫だからじゃない。小さい時から考えて、いろいろ学んで狩りを教わったからだ。」
「ムグムグッ。」 ソレナラッ。
「違う。考えナシで飛び出して、いつも誰かに助けられている。そんなのを外に出せば死ぬ。だからコウもツウもジロ、ヌシを出そうとしないんだ。」
コウが持つ宝の力が無ければ、乱雲山のドコかで力尽きていただろう。今も生きているのは、生かされているのはコウとツウの倅だから。
コウは村長、ツウは織頭。ジロはコンナだが双子は賢い。三つで宝の力を得たゴロはコウの、ミツはツウの跡を継ぐだろう。
「ワシらみたいに『何か』を持たないヤツはな、小さい事から始めてコツコツ積み上げるしかない。持って生まれたヤツとは違うんだ。」




