16-5 暴れるなら
妹が号泣する姿を見て、ジロは己の先が暗いコトを悟った。それでも外に出たい気持ちは消えず、頭を抱える。
「兄さん、来て。」
ゴロに促され、家の外に出た。
「子の内は親と暮らす。それが雲井の、乱雲山の決まりだ。」
「知っている。」
「なら、どうして。」
「外をな、この目で見たい。何が起こっているのか、どんな物があるのか知りたいんだ。ずっと守られたまま生きるのは嫌だ。」
「十二になるまで待てば良い。」
「待てない!」
「父さんは和みの、この村の長だ。その倅が決まりを破れば」
「そんなの知るかよ。」
信じられない。けれど認めなければ、この男が兄だと認めなければイケナイ。
コイツが死のうが殺されようがドウでも良いけど、母さんとミツが傷つくのは嫌だ。父さんが苦しむ姿も見たくない。だから言う。
「両の手を出して。」
「えっ、何で。」
「怖いの。」
「怖くなんかナイ。」
「なら出して。」
「ん。」
腰に結わえていた縄を取り、ジロの手首を縛った。そのまま素早く後ろに回って膝カックン。足首も縛り、手首を縛った縄と結ぶ。
「オイ、何ふぉっ。」
序に猿轡を填め、頭の後ろで結んだ。
「ふぅ。」
「ムググング。」 ナニガ『フゥ』ダ。
「煩い。」
ミツが落ち着いたら母さんに任せて、父さんが家から出てくる。コレを見たら驚くだろうケド、何も言わずに放り込むさ。
子の家の離れは獄になっていて、言い付けを破ったり暴れたりするのを入れて確かめる。この山に残るのか、他で生きるのかを。
「あのさ。外を見たいって気持ち、何となく解るよ。だけど決まり、言い付けは守らなきゃいけない。」
「ムググ。」 シルカヨ。
「ソレしか言えないの?」
ゴロにあるのは探知能力で、心の声なんて聞こえない。それでも分かった。
「おや、ゴロ。ソコに転がっているのはジロだな。また何か、やらかしたのか。」
「こんばんは、ダイさん。」
「こんばんは、ゴロ。」
「フゴムゴゴ。」 タスケテヨ。
「何言ってるのか分からんが、助ける気なんてナイぞ。コウが来るまで転がっとけ。」
「ンゴゴォ。」 ソンナァ。
ダイは和みの釣頭。辛抱強くてカンも良い。
ジロが外に出たがっている事、言い付けを守ろうとしない事、拠り所のナイ考え、己の正しさを信じるトコロも知っている。
「暴れるなら黙らせる。」
拳で殴る動きを見せるとジロが見開き、急に大人しくなった。