5-62 愚考を重ね
強い力を持つ祝のいる社では、大きな騒ぎにならなかった。神から。または、使わしめを通じて。いつ、どこで、何があったのか。欲しい知らせが、直ちに届けられたから。
祝がいなくても、すぐに落ち着いた村もある。少し取り乱したものの、落ち着いた村も。
それらの村には、しっかりした長がいた。食べ物も、薪も、蓄えてあった。加えて、強い守り人がいた。狩り人だったり、釣り人だったり、樵だったり。
祝がいても、乱れた村は、貧しかった。食べ物も、薪も蓄えてあったが、心が貧しかったのだ。しばらくすると、あちこちで火柱が立った。
「ひ、火だ。火が、火がぁぁぁ。」
「倉を守れ! 逃げるな。」
「消せ!火を、火を消せぇぇぇ。」
冬は、乾いている。だから、火の周りが早い。あっと言う間に、燃え広がった。
「どうするんだ! 倉が、食べ物が・・・・・・。」
「奪うしかない。戦だ、攻めるぞ。」
霧雲山の統べる地には、北も南も、東も西も豊かだ。どこも争いを嫌い、穏やかに和やかに暮らしている。しかし、南の山裾の地では・・・・・・。
どんなに豊かで暮らしやすくても、戦好きはいる。玉置、三鶴、北山、豊田、川北、東山、飯田、武田。中でも玉置、三鶴、北山は、戦わなければ、どうにかなるのか? というくらい、戦好き。
当たり前のように仕掛ける、性懲りもなく手を出す、戦、戦、戦。多くの血を流し、勝つまで引かない。奪って、奪って、奪いまくる。
冬は、戦に向かない。戦い慣れている国なら、冬は避ける。山裾の地にある、戦狂いの村や国は、男手を失っただけではない。
生き残った人々の多くが飢え、凍え、死んだ。
争いを嫌い、山の奥へ奥へと逃げ、やっと見つけた地。長い時をかけて、助け合いながら作った村。傷つけず、話し合いで乗り越え、守られている。そんな村は、国にはしない。
川田、馬守、岩割。蔦山、鑪、大平。日吉、釜戸、陽守。乱雲山、天霧山、霧雲山。良山には、早稲から逃げた人たちによって、村が作られた。他にも多くの村があり、幸せに暮らしている。
争いを嫌う村は、戦を毛嫌いしている。だから、受け入れられない。なぜ奪うのだろう、なぜ責めるのだろう。どんなに考えても、分からない。
天つ神は、高天原より。国つ神は、御座す地より。弱く脆い、愚かな人々の行いを、深く深く御嘆き為さる。
人よ、奪うな。美しく、逞しく、豊かに暮らしておくれ。
どんよりと厚い雲が、スッと広がる。冷たい風が吹き、雪が舞う。吹雪となり、しんしんと冷え込んだ。
犲の遠吠えのように激しく、強い風。真っ暗闇に、引き摺り込まれるような感じがして、人々は慄く。