16-3 決めたよ
ジロは嬰児の時から怒りっぽく、両の手足をバタバタさせて暴れた。他の子よりも力が強く、声も大きかった。
あやしても静かにならず、泣き疲れるまで見守る。そんな日が続き、ツウがゲッソリ痩せてしまう。
倒れる前に何とか。そう思い、出来るだけ傍に居たけど。
「困った。」
コウが頭を抱える。
「あの子を引き止めるのは、もう。」
ツウが目を伏せた。
引き止めるのは難しい。けれどジロを、あの子を外に出せば死ぬ。
狩れるのは兎と鳥で、シシや熊は狩れない。カノシシからは何とか逃げられるだろうが、イノシシや熊に出くわせば終わり。
「祝辺の人の守が人の長になって、霧雲山の統べる地から戦が減った。」
「そうね。」
「隠の守が力を揮い、他から守っている。」
「そう聞いたわ。」
「・・・・・・ジロは人の話を聞かない。」
「そう、なのよね。」
ミツとゴロに宝の力が出るようになったのは、三つになって直ぐの頃。
妹と弟に大きく、強い力が現れた。その事がジロの心に、大きな傷をつくったのでしょう。けれど、だからって山から出たいと言い出すなんて。
ジロは長く生きられない。守りをぬけて村や国に入っても、そこで上手く生きられるとは思えない。何でも押し通して、己の考えを貫くでしょう。
その時、何が起こるのか。考えたダケで恐ろしい。
「ジロはゴロに、弟に宝の力が現れて思ったんだろう。いつか己にも、と。」
「いつまで経っても現れなくて、それでも諦められなくて。それで己を追い詰めればと、そう考えたのかしら。」
「そう、だろうね。」
稲田に居た時、何とも思わなかった。爺さまに宝の力があったのに、父さんには無かったから。
宝の力は子だから、孫だからって現れるモノじゃない。そう思っていた。だから驚いたよ。ゴロに辺りを探り知る力が現れた時は。
ミツに先見の力が現れたのは、ツウが天つ神より授かった鏡が引き寄せた。そう思っていたけれど、今は少し違う。
ツウの母さんには弱いけど、祝の力が有ったから。
祝女か祝人の孫か、その子か孫か。薄くても祝の血が混じっていたんだ。だから三鶴に狙われた。
「コウ?」
「何だい、ツウ。」
・・・・・・ポッ。
三人の子の親になっても、とても仲が良い。そんな両親を生暖かい目で見つめるミツとゴロ。
「ただいま。」
今、戻りました。という顔をして声を掛ける。
「おかえり。」
ジロは知っている。十二になれば雲井社へ行き、祝から『乱雲山で生きるか、山から出るか』と問われる事を。
御山を出入り出来る人は、見える目を持つ社の司と村長に狩頭、樵。雲井の祝も出ようと思えば出られるけれど、御山から出ようとしない。
禰宜は隠の世に居て、人の世に姿を現す。いつでも、どこでも好きな時に。なのに教えてくれない。
「父さん、母さん。決めたよ。」
家にタッと駆け込み、ジロが言った。