16-1 どうして
新章スタート!
コウの子ジロは問題児。親の言い付けを破り、周囲の人から何を言われても聞く耳を持たない。そんなジロが家出したらドウなる?
御山を出て直ぐ熊に襲われ、瀕死の状態になったのを救ったのは化け王。『人とは違う生き物になっても、それでも生きたいか』と問われ、『生きたいです』と答えたジロ。体を乗っ取られて大慌て。
新天地編、はじまります。
父さん、父さんの爺さま。その爺様、その爺様も宝の力を持っていた。だから『いつか』と思っていたのに、どうして!
「兄さん、諦めなよ。」
「そうよ。御山の外に出ても、熊に襲われて死ぬわ。」
「煩い。」
双子は三つで宝の力が出た。
妹には先を見る力、弟には探り当てる力がある。弟は五つで、たった五つで狩りを教わるようになった。いつか父さんの跡を継ぐだろう。
妹は五つで継ぐ子になり、家から雲井社に通っている。
二つしか離れてイナイのに、二年も早く生まれたのに何もない。罠を張っても獲れるのは鳥。兎にもシシにも逃げられ、熊を見たいと言ったダケで叱られた。
「十二になったら山を出る! 決めたんだ。」
「言ったでしょう? 死ぬよ。」
「末の事は変わるんだ。先見ったって、何かをチラッと見るダケだろう。信じるモンか。」
父さんに言われた。十二になったら好きに生きろ。御山を出たければ待て。狩りを教わりたければ言い付けを守れ。
出来るだけ守ったのに、どんなに待っても宝の力が出ない。
「言い付けを破るヤツは長く生きられない。」
「黙れ、ゴロ。」
「何を焦っているんだよ、兄さん。」
「・・・・・・もんか。」
「えっ。」
「父さんに似て生まれたヤツに、宝の力を持つヤツに分かるモンか!」
母さんは、とても美しい。他の誰よりも美しいと思う。だから『母さんに似ているね』と言われて、小さい時は嬉しかった。今は嬉しくない。
ミツもゴロも父さんに似て生まれた。三つで宝の力が表に出て、使えるようになったのが羨ましかった。今は顔も見たくない。
「先に生まれたのに。」
どうして。
「狩り、したいのに。」
どうして。
「好きなのに。」
どうして。
ジロ。父さんの爺さまは他の狩り人からも慕われる、とっても強い狩り人だった。父さんにイロイロ教えて、強い狩り人に育てた人だ。
そんな人の名をもらったのに、狩れるのは兎や鳥だけ。
父さんと母さんを悪いヤツから守りながら、釜戸山に連れて行った川田の狩頭の名がゴロ。父さんの妹はミツで、他の人には見えない「もや」が見えた。
そんな人の名をもらった妹と弟は、たった三つで。
「誰に何を言われても、止められても御山から出る。決めたんだ。」
「兄さん、悪いコトは言わないから。」
「そうだよ。小さな獣を捕らえる罠しか張れない。弓の扱いだって、そう上手くない。御山に熊は出ないケド、外には出るんだよ。出くわしたらドウするのさ。」
父さんは大弓で、一本の矢で仕留める。他の狩り人は熊をグルッと囲んで、矢をバンバン放つのに。
父さんは御山の外に出られるし、他の狩り人と力を会わせて、悪いヤツを捕らえて釜戸社に引き渡す。だから、いつか。
「戦うさ。仕留めるさ。」
ミツとゴロが黙って、ジロを見つめた。




