15-62 捨てる気はない
琅邪の闇は深い。
噴き出す闇を取り込んだのか、海に投げ捨てたのか。この地は清らでサラサラしている。
「探し物は見つかりましたか。」
儺升粒が微笑む。
「いいえ。」
叢闇の品、闇喰らいの品が隠されている。そう思ったが違う。持ち込まれても海社へ。残った闇は取り込むか何かして、琅邪を守っている。
そんな事が出来るのは卑呼姉弟。
会うか。いや、どうやって。姉は琅邪女王神、弟は琅邪王弟神。中つ国、国つ神で在らせられる。
はじまりの隠神、三柱の仰せだがソレだけ。
儺升粒は琅邪大王で、琅邪の社の司。その気になれば今、直ぐにでも。
「琅邪大王。琅邪社に御坐す二柱に、お伝えしたい事があるのです。お許し、いただけませんか。」
ニコリ。
「では言伝、お預かりします。」
ソウキタカ。
「いいえ。御会いして、己で。」
琅邪の闇は消えない。けれど濃くなること、噴き出す事も無いだろう。
このまま、とも思う。思うが確かめなければ儺の全て、裏の裏まで調べられない。
さぁドウする。
社の司は人の長、国を統べるのが王。その二つを兼ねるのだから、他とは違う力を持っているのだろう。それを使え!
「わかりました。少しアチラで、お待ちください。」
そう言った儺升粒の後ろから、夜鳥がスッと顔を出した。その目は恐ろしく冷たい。
「では、頼みます。」
鬼だ。黒い翼を持つ、とても強い鬼。
体が思うように動かない。真っ直ぐ歩いているが、頭がボウっとしている。考えが纏まらないのは、操られているからか。
ややこしいコトになる前に、会って確かめましょう。
儺升粒の力は効き難くても、夜鳥の力は効いている。暴れれば切り刻み、小さな壷に入れて送り返しましょう。
もう少し、イオが思うように動けるようになるまでで良い。琅邪で静かに暮らし、力を蓄えるの。だから、気に入らないけど守るわ。琅邪と儺を。
「何か出ましたか。」
ミチが問い、微笑む。
「いいえ。」
サミが首を垂れたまま答え、待っている。
「顔を上げなさい。」
「はい。」
ゆっくり上げた顔には、笑顔が張りつけられていた。
「琅邪女王神、琅邪王弟神。これからも、ずっと琅邪を御守りくださるのですか。」
「琅邪の民に求められなくなるまで、この地で穏やかに暮らしたい。そう願っています。」
ミチはイオのため、イオはミチのために生きている。儺升粒は琅邪王を消すため、好いように使ったダケ。
かといって捨てる気はない。
儺升粒だって、ソレに気付いている。それでも姉弟から離れようとしないのは、その力を強く頼っているから。
見捨てられれば直ぐにでも、他から仕掛けられたり攻め込まれる。そうなれば守り切れない。
「ありがとうございます。」
姉弟の言の葉に偽りは無い。心から琅邪での、穏やかな暮らしを守りたいと思っている。守るためなら、どんな事でも為さるだろう。
「これから儺を、調べて回ろうと思います。」
「瓢に戻る前に、もう一度。」
「はい。きっと伺います。」




