15-61 手を出せば消されると思え
儺国の監視が始まった。
琅邪女王は今の幸せを守るため、王弟は姉の意を汲んで計画を見直す。琅邪大王は弟妹を支援することで、琅邪を守ろうとしている。
「思ったより明るいな。」
琅邪は小国。雨が少ないコトを除けば暮らし易く、海と山が近いので食べ物にも困らない。
「守りを固めたのか。」
だから狙われる。琅邪を落とせば、奪えれば食べ物と兵が手に入るのだ。
「見当たらない。」
差し出されるのは奴婢や卑呼。女は死ぬまで産まされるから、育って逃げ出す事も無い。
「・・・・・・いや。」
琅邪女王は逃げた。逃げて足を折られ、雨降らしの力を得る。
弟を守るために強くなり、大王の倅を取り込んで這い上がる。
「まぁ良い。」
琅邪を調べても、見られて困るモノは出てこないだろう。隠すか燃やすかして、どこにも。
琅邪は強い。儺に内から仕掛け、小鬼を大王に据えたのだから。
儺に取り込まれた国ごと抱え込み、食べ物や水を分け与えている。それが出来る小国など、鎮の西国では琅邪だけ。
他では難しいだろう。
琅邪女王神は卑呼女、琅邪王弟神は卑呼男だった事を隠さない。
今も、そう名乗るのは仕返しか?
琅邪の民、他の民も蔑んでいたモノに生かされている。その事を胸に深く、深く刻む。
「そうか。」
罠だ。
奴婢に落とされ、産まされた子が奴婢。その奴婢が幅を利かす。それを琅邪は、民は受け入れている。そう聞いた長や王は仕掛けるだろう。
「この骨は、きっと。」
骸は打ち捨てられ、獣が咥えて持ち帰る。だからバラバラになり。
「戻れ、ない。」
いや、そんな事はない。根の国で裁かれ、生まれ育った地に戻るもの。なのに闇を纏い、苦しみ続けるのは。
「考え過ぎだ。」
姉弟は隠から妖怪に、それも鬼になっている。だから他より強くて、人にも姿を。
オカシイ。隠は人に、生き物に姿を見せられない。何か居るな、と思わせるのがやっと。なのに姉弟は変わらず、人だった時と同じ姿を見せている。
変わり種だとしても、あの目は。
そうだ。光を奪われ、闇に魅せられた者の目。あの目を持つのは生きる望みを奪われ、それでも死ねない者たち。
人だった時から酷い扱いを受け続け、探していたのではナイか。思うように動かせる、踊らせられるモノを。
「難しい顔ですね。」
儺升粒に声を掛けられ、サミが見開く。
「館を出た時から、ずっと居りますよ。」
「そ、うですね。」
この男、そうか。鬼だったな。
人だった時、儺国王だった男。隠になっても耶万に奪われた妹を探し続けた。
解かる、が許さん! やっと落ち着いたのに、琅邪を儺の代わりに。なんて考えているなら潰す。
「お止めください。」
心を操る力。
きっと隠にも、獣にも効くのだろう。琅邪大王に操られても、直ぐに消えて元に戻る。けれど、そうだな。何をしようとしたのか、判らせるか。
「隠の世で選ばれ、人の世に戻されたのです。儺を調べるために。」
手を出せば消されると思え。
「そうでしたね。」