15-59 何かを、誰かを守りたいなら
儺や琅邪がドウなっても、滅んでも困らない。イオがいれば、イオが幸せならソレで良いの。
幸せに暮らせるなら、もっと良いわね。
もし今、琅邪を捨てたら、きっと儺升粒が暴れる。
考えや動きを操る、あの力。今は効かない。けれど死んで、同じ鬼になったらドウなるかしら。
「女王神。」
「どうしたの、儺升粒。コワイ顔をして。」
卑呼女さま。どうか、どうか琅邪を見捨てないでください。
今。いいえ、これからも琅邪は狙われます。卑呼姉弟が居るから、その力に守られているから手出しされないダケ。
いつか人として死ねば鬼に、この力を思うように揮えるのでしょうね。けれど恐ろしい。その時、同じように動けるでしょうか。
民を人と思わない、あの父王のようにナラナイ。そう言い切れないのです。
「儺升粒。子は親を、親も子も選べない。でもね。」
・・・・・・はい。
「儺升粒の兄さま。」
えっ。
「儺升粒が守りたかった人も、あの王の倅よね。」
そう、だ。兄さん。
ミチさま、イオさまが隠の世へ移り住まれても、人の世に留まる事は出来る。この力、琅邪を他から守るため。
儺を前に出せば守れるんだ、守るさ。
兄さん、見守っていて。あの男に出来なかった、考えもシナカッタことを為すよ。
アレに叩き込まれた事、すべて使ってやる!
「儺升粒。」
「はい。」
「他の地で暮らす妖怪の国守は、引き取った合いの子もユックリ老いている。そう聞いたわ。」
「・・・・・・はい。」
琅邪は守る。いつか死んで鬼になっても、祓い清められるまで人の世で守る。
兄さんが聞かせてくれた、みんなが笑って暮らせる国にするんだ。
「ねぇ、儺升粒。何かを、誰かを守りたいなら顔に出さずに笑いなさい。」
「顔に、出ていましたか。」
隠していた、いや隠せていると思ったのに。
「出ているわ、今も。」
怖いと思う。顔は笑っているのに冷たい目をしたり、何を考えているのか分からなかったり、近くに居るのに遠くに感じる。ずっと前から。
奴婢の子は、生まれた時から卑呼。
男は骨と皮になるまで扱き使われ、動けなくなって死ぬ。女はソコソコ食べさせてもらえるが、親が分らない子をポコポコ産まされて死ぬ。
ミチさまは八つから。
逃げ出して足を折られ、雨が降る時を言い当てるようになった。それで扱いが変わり、イオさまと暮らせるようになったと聞く。
きっと他にも言えないような事があって、それを忘れられず、今も苦しみ続けて御出でだ。すべて父王が、あの男が悪い。
その倅なのに。
「社を通せば、他では生きられない合いの子が引き取られる。中の東国、明里だったかしら。」
「はい。」
明里王は悪取神。はじまりの隠神に認められ、人の世に留まり為さった国つ神で在らせられる。
明里の長は人。悪取神に救われ、他から移り住んだ人の子や孫。
これからも続くのだろう。




