15-58 また来たのね
兎に睨まれたら、やまとで生きてゆけない。
瓢での平和で幸せな生活を守るためだ。怖くても恐ろしくても、逃げたくても逃げずに任務を遂行する。それが瓢の長、滑に課せられた使命!
負けるな滑、戦え滑。大陸で味わった、思い出したダケで血尿が出るアレコレに比べれば、楽なモンじゃナイか。
「ミチ姉さん、瓢から使いが来たよ。『琅邪女王に、お伝えたい事があります』だって。」
「あら、そうなの。」
琅邪女王神ではなく、琅邪女王に。となると。
「儺国の事かな。」
「イオもソウ思う?」
姉弟は思った。出雲とは違うドコかで、何かが動き出したと。狙いは琅邪ではナク儺国で、これからも続くのだろう。
「会うわ。儺升粒には琅邪大王として、館に居るように伝えてね。」
「わかった。」
鬼になってイロイロ変わった。これから先の事が見えるようになったし、離れていてもアレコレ出来るようになった。
考えてみればオソロシイ事よね。
中つ国には人の世と隠の世、二つが隣り合っている。そう聞かされて思ったわ。隠の世は人の世を動かす気も、救う気も無いんだと。
「・・・・・・ハァ。」
いつか隠の世へ移り住むでしょう。その時、追い出されないように努めなければ。
「卑呼女さま。社の離れで休ませていた子が、目を覚ましました。」
継ぐ子がトコトコやってきて、ペコリと頭を下げてから伝える。
「ありがとう。今、行くわ。」
「はい。」
琅邪にはアチコチから、病を癒してほしいと人が押し寄せる。
軽い病なら癒せるが、重い病はドウにもナラナイ。それでも子なら、ジックリ時を掛けて流れを整える事にしている。
長く生きられなくても、痛みや苦しみを軽くする事は出来る。穏やかな顔で眠るように死ねば、残された者も救われる。そう信じて。
「また来たのね。」
琅邪の外れに、アヤシイ動きをするのが近づいた。
「フッ。」
鼻で笑って力を揮い、一人の血流を止めた。
ドタッと倒れ、苦しみながら息絶えるソレを見て逃げ出す破落戸たち。
「逃がさないわよ。」
纏めて処分し、素っ裸にしてから飛ばした。
骸を海へ投げ込めばオシマイ。
「分狐たち。」
「はい、琅邪女王神。」
「琅邪の外れにヒトデナシの衣があるわ。いろいろ持ち込んだようだから、気を付けてね。」
「ハイッ。行ってきます。」
モフン。
琅邪に持ち込まれたのは、泉に入れれば飲めなくなる毒。取り除けない強い毒だった。
「まだ狙われているのね。」
「姉さん。」
「イオ、そんな顔しないで。力を合わせて穏やかで、和やかな暮らしを守りましょう。」