5-61 危機管理
幸田、切雲、矢光の長が、雲井社に集まった。
「ツル。皆、揃いましたか。」
「はい。」
「始めます。」
震えは治まった。しかし再び、震えるかもしれない。火を使っている時、震えたら、すぐに消す。そのために、水か雪玉を。
火を消したら、慌てず、急がず、外に出る。家が燃えなければ、案ずることなど、何もない。食べ物も、薪も、多く備えてある。
決して忘れてはいけない。命は一つ。まず、火の元。そして、頭を守る。
立ったままだと、転ぶ。腰を落とし、外へ。そして、静かに屈む。
傷を負ったり、害を受けたりする恐れのないこと。それこそ、尊い。たった一つの命を守るため、出来ることをする。
「それぞれ、戻り、皆に伝えよ。」
「はい。」
長が村に戻って、しばらく。再び、地が震えた。言いつけを守り、火を消し、外へ。
年老いた者が一人、転んだが、何事もなかった。
「困ったもんだ。」
「全く。」
「で、どうする。」
三妖怪。干し肉を頬張り、密談中。議題は、山裾の地で勃発した、戦について。
地が震え、驚いたのは、人だけではない。獣も同じ。グッスリ眠っていた熊たち、ビックリ仰天、飛び起きた。
しばらくして、多くは二度寝。ウロウロした熊も、巣穴へ。ほとんどの熊が、スヤスヤ。
寝付けないのか、一頭、幸田の村のそばに。一人は社、一人は矢光の村へ、伝えに走った。
社の司ツルは元、狩り人。スクッと立ち上がった。
「お待ち下さい。森から出たのは、二頭。親子だと思います。」
「コウ。それは、違いないか。」
「はい。一頭は幸田の近く、親熊でしょう。一頭は子の家あたり、子熊です。森を出たこと、分かっていて戻らない。そんな感じです。」
コウの持つ力は、狩り人にとって、宝の力。そのことを聞いて、知っていた祝は言った。
「森へ帰しましょう。出来ますか、コウ。」
「はい。」
「ツル。家から出ぬよう、皆に。コウ。何か。」
「足腰の強い祝人を一人。オレと、出て下さい。子熊が親と、山に戻れば、何もしません。近づきすぎた時は、狩ります。」
「わかりました。コウ、気をつけて。」
「はい。」
コウは、念じた。『森の方へ。親に、見つけてもらえ』すると子熊が遠ざかる。親が近づいた。そして仲良く、森へ。
離れて見ていたツルは、思った。『さすが、ジロの孫』と。
熊が森に戻ったと聞き、フクは思った。『冬の熊肉、美味しいよね』と。