15-57 一本くらい
いろいろ察した滑は急ぎ、瓢の民を集めて箝口令を敷く。
命からがら海を渡り、亡命した妖怪の町だ。民は全て元、大陸妖怪。隠は居ない。
そんな町に隠が、特命を受けた隠が転居してきたのだ。当然だろう。
「儺国と言えば、アレだろう。」
「あぁ。アレがアレして、あぁなった。」
「おっ、オソロシイ。」
儺国の一つ、琅邪が儺国を取り込んだ。
小国が大国を内から壊し、送り込んだ王は小鬼。生き神となった琅邪女王、王弟に忠誠を誓うのは吉舎一鬼だけでは無い。
「琅邪大王、半鬼だろう?」
「らしいな。」
「死んだら鬼になるって聞いた。」
儺升粒は日に日に力を増し、同時に複数人の思考を操作している。このままだと何れ。
「そんなのが鬼になったら。」
「どうなるんだ。」
「コワイ。」
「オソロシイ。」
「泣く。」
瓢の民、揃ってガクガクぶるぶる。
琅邪に睨まれたら終わり。サミに睨まれても終わり、なのに転居してきたのだ。正直なトコロ、お近づきになりたくナイ。
「こんにちは。」
ヒッ!
「良い日和ですね。」
ニコリ。
「ソうデスね。」
嫌われたら終わりだ、笑え。笑うんだ、オレ。
「隠の世、空霧から瓢に移り住みました。隠のサミです。よろしくお願いします。」
ニコッ。
読めない! この男、何を考えている。あぁ、そうだ。元、儺国王だもんな。うふふ、あはは。
「こちら、葡萄の酒です。」
こっ、コレは幻の銘酒『幸さくら』ではナイか! どうしよう。とっても嬉しい。
「困った時は、いつでも頼ってください。」
大陸妖怪じゃなくてもメロメロになるヨ。
幸さくらはアンリエヌ国、化け王にも献上された銘酒。それをポンと贈った相手は瓢の長、滑と愉快な仲間たち。離れたトコロに建っている隣家。
「・・・・・・一本くらい。」
鯰、思わず生唾をゴクリ。
「滑さま。うっ、兎サマに献上した方が。」
竜も、思わずゴクリ。
「やまと、ではな。三は満つ。」
滑も釣られて、ゴクリ。
話し合いの結果、一本は毒見。残り二本を献上する事に。
味わいましたよ、ジックリと。涙が出るほど美味しかった。
報告を受けた大国主神、使わしめをチラ見。ニッコリ微笑まれ、丸投げ為さった。
稻羽も慣れたモノ。ソソクサとイロイロ整え、滑に命じた。
「私が琅邪へ?」
嫌だ! 行きたくない。
「琅邪女王神ではナク、琅邪女王に伝えよ。『儺国が見張られている』と。」
「・・・・・・仰せのままに。」




