15-56 泣きたければ泣け
乱雲山にある村の一つ、和みで幸せに暮らすココの姿を見て安堵したサミ。
力が抜けたのだろう。ヘナヘナと、その場に頽れる。
「雲井社が取り仕切っている子の家で会った時、ずっと三人で固まっていた。」
コウが語りだす。
「鎮の西国から攫われ、耶万から攫われ、早稲の外れで見たくないモノを見せられた。」
・・・・・・そうか。
「穢されていない。」
えっ。
「見せられたが、そうなる前に救い出された。」
ココは同じように攫われた子らと、耶万に連れてこられた。
生き残ったのは王の娘に長の娘、兵頭の倅の三人。他は壊れたり壊されて、言の葉に出来ない扱いを受けて死ぬ。
その骸は捨て置かれ、そのまま。
倅に殺される前の耶万王は、差し出された奴婢たちに問うた。『あぁなりたいか』と。
渇きと飢えに苦しむ者に、先の事を考える力は無い。答えは一つ。
「パッと見て他と違うと、そう思われた。だから檻に入れられ、他から守られたのだろう。」
ココはノブに、儺で攫われてから子の家に引き取られるまでの全てを打ち明けた。それを聞いても逃げず、共に生きようとノブは言った。
珂国の長の娘ミア、対国の兵頭の倅カセは驚く。それからだ。独り身を通すツモリだったミアに、カセが思いを伝え始めたのは。
二人は一年の後、契る。
ココ、ミア、カセの三人は今でも、とても仲が良い。
「オレは民を凍えらせたり飢えさせない。この御山は強い力で守られているし、ノブはココを心から慈しんでいる。」
見える目を持つ村長、コウから聞かされ嗚咽が込み上げた。
「泣きたければ泣け。心を殺すな。」
死んでしまったと、酷い扱いを受けたと思っていた妹が生きていた。ギリギリで救い出され、この山で幸せに暮らしている。
他から切り離され、神の御力で守られた山。
人の世では祝、隠の世には禰宜が目を光らせている。だから戦にならないし、仕掛けられることも攻められる事も無い。
「ありがとうございます。」
サミがコウに首を垂れた。
「これからも妹を、ココを守ってください。」
「村長だからね。動けなくなるまで、隠になるまで他の民も守るよ。」
コウが微笑む。
乱雲山から雲井の禰宜に連れられ、和山社へ。大蛇神、夜叉神、猫神に誓いを立てたサミは空霧に戻り、片付け始める。
人の世との境に在る妖怪の町、瓢に移り住むために。
「滑さま。いっいっ、如何なさいます。」
「おっおっ、落ち着け竜。」
「そうダぞ。落ち着くのだ。」
「鯰よ、何だソレは。」
「・・・・・・笊、で御座いマス。」
瓢の長、滑。大臣、鯰。臣の竜。揃って大慌て。
そりゃソウだ。はじまりの隠神で在らせられる大蛇神、一柱でもスゴイのに猫神、鬼神も御認め遊ばした隠。
元は儺国王。隠になっても闇に囚われ続け、それを取り払われて消えかかったのに助かった。
そんなのが儺国を見張るために、わざわざ瓢を生活拠点に選んだのだ。
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