15-54 悪いのは
サミは儺国王だった。
他と比べれば賢王だったが、それでも多くの命を奪っている。
今、サミを苦しめているのは呪い。
恨み辛みが闇に変わり、その身に取り憑いたのだ。祝ならスッと清めるだろうが、コウは狩り人で祝ではない。
「耐えられるのか。」
「どう、だろうな。」
「透けてきたゾ。」
雲井の三妖が見開く。その隣でジッと見つめるコウが、膝を折って微笑む。
その目は優しく、『もう少しだ』と言っているようだった。
「シニタクナイ。」
「コワイヨォ。」
「タスケテ。」
サミが殺した、守れなかった人たちが叫ぶ。王、それも大王だ。仕掛けられれば攻めるし、攻められれば滅ぼす。
悪いのは王で民ではない。それでも斬った、殺した、死なせた。
守らなければイケナイ民を盾にされれば、どんなに胸が痛んでも引けない。泣きながら嬰児をあやす母でも、怯える幼子を抱きしめる母でも。
妹や弟を守るように前に出て、その小さな体で隠そうとする幼子。好いた娘を守り切れず、斬り殺された男の骸。それらの目が訴える。
「モウ、ヤメテクレ。」
「イクサスルナラ、ヨソデヤレ。」
「マキコムナ。」
悪かった。謝って許されるとは思わない。けれど、いや止そう。儺を、儺国を守るためにしたこと。全て背負うのは大王。
大王が倒れれば国が滅ぶ。国が滅びれば、その民は奴婢になる。奴婢になれば言えないような事をされたり、させられたりする。
『あの時、死んでいれば』なんて思わせたくない。だから戦った。
「ユルサナイ。」
「ユルセナイ。」
解っている。何を言っても、何をしても償いきれない。けれど、あの時は他に術が無かった。
儺国は大きい。滅ぼした村や国を取り込んで、少しづつ立て直そう。そう思っていたのに病に倒れ、死ぬんだなと。
跡継ぎを厳しく育て、遣り切った。あの時は、そう思ったんだ。でも甘かった。倅は良くやったが、孫は戦狂い。
アレは生まれつきだろう。力が全てだと思い込み、殺した長や王の娘を。
「ココ。」
まだ子だ。追い回されて捕らえられ、泣きながら助けを求めただろう。
「すまない。」
言えないような事をされたか、それを見せられたか。
強い村の外れで見つかり、舟に乗せられ調べを受けた。儺に戻ろうと思えば戻れたのに戻らず、中の東国に留まったのは怖かったから。
なぜ生き残ったのかと問い詰められ、揉みくちゃにされると思ったから。
耶万では獣を入れる檻に入れられ、垂れ流していたと聞く。耶万の継ぐ子が、こっそり食べ物や水を差し入れていたとも。
生き残ったのはココを入れて三人。他は真中の七国に売られ、酷い扱いを受けて死んだ。
「クルシメ。」
戦を始めるのは直ぐだ。なのに終わらせるのは難しく、うんと時が掛かる。だから始めてはイケナイ。
仕掛けられぬよう目を光らせ、迫られる前に話し合う。それが王。




