15-51 お受けします
話し合いの末、琅邪と儺国の監視役にサミが選ばれた。
儺国出身の元、儺国王。琅邪社の面面が隠し事をしても直ぐに見抜き、知らせてくれるだろう。
「真ですか!ココが、妹が生きているというのは。」
空霧の社に呼ばれたサミが、叫ぶように言った。
「あぁ、生きている。」
夜叉神が静かに仰り、御目を細め遊ばす。
いくら探しても見つからなかった末の妹。父からは『忘れろ』と言われたが、サミには忘れられなかった。
年の離れた、それも妹だ。小さくてフワフワしていて、トテトテと歩きながら両の手を伸ばす。抱き上げるとキャッキャと喜び、ニコニコと笑う。
その全てに幾度、救われたか。
「ココが、ココが生きている。」
それだけで。生きていると分かっただけでも。
「会いたいか。」
「エッ。」
会える、のか。
「会わせても良いが、こちらの頼みを聞いてもらうゾ。」
何をさせる気だ!
どれだけ探しても見つからなかった。誰に聞いても分からなかった。この社にも通い、繰り返し問うた。なのに、その時は何も言わなかった。
何を企んでいる。
ココは、妹は囚われているのか。生きているダケで死にたいと、そんな扱いを受けているのか。すぐに会わせない、というコトは・・・・・・。
「サミよ。ココは今、人の世。霧雲山の統べる地で幸せに暮らしている。」
霧雲山。中の東国、真中に聳える山の集まりか。
「好いた男と契り、母になった。」
ココが、あの小さかったココが母に。
サミの目に涙が溢れ、頬を伝う。己が泣いていると気付いたのは、白牙から小さな布を渡された時。
それを手にした瞬間、胸の奥が締め付けられた。
「ココが織った布だ。」
「ココが。」
柔らかく、シッカリとした布。
花で染めたのだろう。薄い桃色で、解れないように縢ってある。一針一針、心を込めて。
「頼み、とは。ソレをすればココに、妹の姿を見られますか。」
遠くからでも良い。生きている姿を、笑っている顔を見たい。幸せに暮らしているなら、それを確かめたい。
「儺国を見張れ。どんな動きも見落とさず、全てを告げ報せよ。」
儺国を見張る?
「儺国は琅邪に取り込まれ、小鬼が大王になった。」
「えっ、琅邪。」
琅邪は儺国の一つ。小さいが海に近く、平たい地が広がっていた。人が足りないのか、奴婢の子を卑呼と名づけ、酷い扱いをしていたな。
いつか滅びると思っていたが、父王を倒した儺升粒だったか。倅が王になって立て直したと聞く。
支えたのは強い力を持つ巫と覡で、姉弟だとも。
「儺を取り込んだ琅邪は、鎮の十王を従えた。儺国王、吉舎の後見は生き神、琅邪女王神。琅邪王弟神。」
「生き神ではなく隠、いや妖怪。となると鬼。」
大当たり!
「サミよ、どうする。」
「お受けします。妹に、遠くからで良いのでココに会わせてください。」




