5-60 緊急連絡
その頃、釜戸山では。
「エイさまぁぁぁ!」
「落ち着け! この震え、釜戸山では、ない。」
ナガに抱きしめられたまま、静かに言った。心の中では、大騒ぎ。祝とはいえ、幼子である。父にしがみついていることは、大目に見てほしい。
「ま、真で、すか。」
「落ち着いて下さい、シロさま。」
「ろ、ロク。怖くないのか?」
いや、何を言っているの? っていうか。伯父さん、社の司でしょう。はぁぁぁぁ。甥として、恥ずかしい。
それに引き換え、ナガさん。エイさまを抱えたまま、テキパキと命じて。オレの心を、引き付けて離さない。
「父さま、下ろして。」
コソッと、可愛く。
「気をつけるんだよ。」
「ありがとう、父さま。」
あ、愛らしい。抱きしめたい。いや、落ち着け。娘とはいえ、祝だ。何か、考えがあるのだろう。
「エイさま。ど、どちらへ?」
「シロ、見よ。いつもと同じ、白い煙だ。」
「そ、うですね。」
釜戸山じゃない。とはいえ、あの震え方。近くにある火の山まで、かなり離れてるって。いつだったか、木菟が教えてくれた。
「エイ。」
「ポコさま。あっ、お待ちを。」
「酒は、よい。はよう、はよう。」
「エイよ。私では、ないぞ。」
「はい。」
「とはいえ、浅い地で震えた。魂迎湖の西、釜戸山みっつ、離れた辺り。」
「他の火の山が噴いたのでは、ないのですね。」
「そうだ。しかし・・・・・・、・・・・・・。」
「皆。心して、聞いてほしい。」
地が震えたのは、他の火の山が噴いたからではない。浅い地で震えたので、大きくなった。
この度の震えで、釜戸山が噴き出すことは無い。そのことを忘れず、二度、強く震えても、慌てないように。
火を扱っている時に震えたら、しっかり火を消す。冬を越すために、食べ物も、薪も、蓄えてある。とはいえ、家や倉が燃えれば、ひとたまりもない。
冬は、とても乾いている。火の回りが早く、危ない。そのこと、心にしっかりと刻みつけるように。
何かあれば、どんなに小さなことでも、長へ。長は社へ、必ず伝えるように。
「シロ、タカ、フサ。それぞれ、長に伝えよ。」
「はい。」
シロは、守り長。タカは、狩り長。フサは釣り長に伝えるため、社を出た。