15-47 狐だって撫でられたい
何だ、あの生き物は。足も翼もない、狐の背に乗ってプルプルしているアレが社憑き? 刺せば割れそうだな。
「プルン。」 キコエテルヨ。
「エッ。」
「プルルン。」 ロウヤノオオキミ、ダヨネ。
「ナッ! 誰だ。ドコにいる。」
「プルルル。」 キツネノセニイル。
・・・・・・。
「プルン。」 カクシテモワカルヨ。
あらゆる生物の思考を読む無形から『隠しても分かるよ』と言われた儺升粒、驚愕。次次と琅邪の、儺国の闇を暴かれて膝をつく。
「知られた。」
すべて知られてしまった。もう終わりだ。
「プルル。」 コレカラドウスル。
兄さん、ごめん。兄さんが造りたかった豊かで、穏やかで、和やかに暮らせる国に近づいたのに。
子がね、増えたんだ。女が強くて、笑っている国は強いんだよね。琅邪も良い国に、兄さんが話してくれた国に近づいたと思う。なのに、なのに、なのに!
「立て。」
人の姿に化けている悪鬼が、小さいが良く通る声で言った。
「はい。」
儺升粒がフラフラと立ち上がり、顔を上げる。
「隠し持っている品、全て出せ。焼く。」
スッと目を細めた二妖。悪鬼は右回り、嫌呂は左回りに狐火を展開。アッと言う間に琅邪をグルリと囲む。
青い炎は全てを、白い炎は動かないモノを、青と白の炎は動くモノを焼き尽くす。それが狐火。琅邪を囲んでいるのは青と白の炎だが、生きているようにも見える。
「おっ、お待ちください。今すぐ、お持ちします。」
悪鬼も嫌呂も本気だった。出張手当がつく、とはいえ遠方。それも鎮の西国。
隠し事が出来ない相手を警護しながら情報収集するのだ。良村の美味しい干し肉に加え、愛し子からナデナデされなければ割が合わない。
良村、大蛇社。
はじまりの隠神、大蛇神の社は石積み。建てたのは守りと清め、二つの力を生まれ持つマル。飼い犬マルコは蛇神の加護を受け、老犬なのに若若しい。
そんなワンコがピッタリついている。となると。
「サッサとしろ。」
「息せず走れ。」
祝の力を二つ、思いのままに扱える。そんな愛し子にナデナデされるなら、どんな務めも果たします!
狐だって撫でられたい。真っ直ぐ伸びた太い尾を、ワンコのようにブンブン振るヨ。耳だってパタンとするヨ。
「多いとは思ったケド。」
「集めたねぇ。」
「プルルゥ。」 タメコミスギ。
呆れる三妖、揃って溜息。
当然です。堆く積まれたソレは全て、闇を纏った危険物。叢闇の品は無いけれど、禍禍しい闇喰らいの品ばかり。
鬼には負けるが妖狐も強い。纏めて消し炭にして、儺国を隈無く調べよう。と思うのに、思い通りにはナリマセン。
「使いたくなかった。」
肩を落とす悪鬼と嫌呂。
「プル、プルルン。」 マヨウナ、ツカエ。
無形がプリンのようにプルプル揺れ、跳ねる。




