15-45 断れないヤツだ
サミは儺国王の四彦。幼子の頃から一人づつ、兄を陥れたり死なせたりして跡継ぎになったキレモノ。
末の妹、ココにダケは優しかった。
ココが望まないと言い切り、弔い合戦では無く生き残る道を選んだ。
好戦的だが引き際を見極める事に長けていた王は、去る者は追わず、来る者は拒まず。裏切ったり背かない限り、殺す事は無い。
儺を再興してから眠るように死亡。死因は過労死。
若くして隠となり、『ココが居ない人の世では暮らせない』と郡山に移り住む。
「・・・・・・そうですか。」
流山で暮らす妖狐、悪鬼が微笑む。
「狐二妖では少し、難しいかと。」
悪鬼の相棒、嫌呂もニコリ。
流山は中の東国、霧雲山の統べる地の南に在る。
他の隠の世では暮らし難かった隠や妖怪が改心し、穏やかに暮らす地を御治め遊ばすのは梟神。
悪鬼と嫌呂は狐だが、大蛇神の使いを務める。使わしめでは無いが、その首に提げているのは大蛇社の札。
愛し子マルの加護つき。
「湯溜の社憑き、無形を守りながら務めよ。」
尻尾がゾワワとなり、黙って抱きしめたコンコンず。
「マルの力が込められた札を提げているだろう。」
シュルリと出し入れした舌が、いつもより赤く見えた。
「ヒャイッ。」
断れないヤツだ。
特命を受けた悪鬼と嫌呂は遠い目をしながら流山に戻り、いろいろ準備する。
二妖はタダの狐ではなく、座長と看板役者だ。劇団コンコンは地方公演も多く、旅慣れているのでサクサクすすむ。
「マルさま、信じてます。」
嫌呂がポツリ。
「信じよう。」
「はい、悪鬼さん。信じましょうね。」
悪鬼も嫌呂も、やれば出来る狐である。その強さ、ずる賢さ、逃げ足の速さは天下一品。なのに逃げられない。
「もう休もう。」
「はい。」
二妖が尾を抱き、眠りながら願う。
儺国から危ない品が出ませんように。すんなりサクサク進みますように。叶うなら美味しいゴハンが食べたいです。マルさま、マルコさま、お願いします! と。
「何かしら、あの塊は。」
「姉さん、何を見たの?」
「水、かしらね。」
「水の塊が飛んでくる、のかな。」
「違うの、イオ。動くのよ。こう、プルプルと。」
「ん。」
「水の神に仕える何か、だと思うわ。その近くに見えないけれど居るの。」
悪鬼と嫌呂を守るのは、大蛇とマルの力。
愛し子は皆、強い力を持っている。けれど清めと守り、二つの力を使い熟せるマルは異例中の異例。
そんな愛し子に守られているのだ。先見や先読の力では、どんなに努めても見えない。
「そのプルプル、悪いモノを連れているなら消すよ。」
「いけないわ、イオ。プルプルも何かも、とても清らなのよ。だからね、きっと琅邪を。いいえ儺国を調べに。」
「調べにって、神の仰せで?」
「そう、だと思うわ。」
「なら、消せないね。」




