15-43 さぁ、どうぞ
人だった時から人を憎み、生まれを呪い、それでも何とか生きていた。姉は弟の、弟は姉の幸せを願いながら。そんな姉弟が今わ、手を取り合って思う。
次があるなら力が欲しい、と。
姉弟は海で死んだ。
隠から妖怪に、それも鬼になったと気付いたのは水際。眺めも匂いも同じなのに、どす黒い霧の帯が身を貫いた時。
「お気づきですか?」
ザワッ。
「儺国王になって直ぐの子に、残り九の大王を集める。」
ハッ!
「琅邪でも儺でもナク、どうして焼山を選んだのか。」
ゾクッ。
穏やかに暮らすため、手を組んだ琅邪王の倅は半鬼になっていた。プチンと潰せるのに生かしたのは、心を操る力を持っていたから。
『使える』と思ったから。
「お待たせしました。」
琅邪大王、儺升粒。笑顔で登場。スッと腰を下ろし、ドンと瓢箪を置く。
「紫の煙。」
儺国王を除く九王が顔色を変えた時、儺国王が瓢箪を受け取りキュポンと開栓。
「さぁ、どうぞ。」
九王は知っていた。大陸を襲った病は近づいたダケで移り、肌の色を紫黒に染めると。毒かもシレナイと。
「どっ、どうして。」
ソレを手に入れた。
「何を。」
どう使う気だ。
儺升粒は望んで大王になった。兄を殺した父王を殺し、歯向かう者を甚振り、逃がしてから殺した。
その子も、親も全て。
琅邪から奴婢と卑呼を無くし、姉弟に預けて留め置いた。
弱いから、いや弱らせてしまったから守る。守らなければイケナイ。人で無しから玉と根を切り落とし、その命を懸けて働かせたのも兄の考え。
「これまで通り、十の大国で収めましょう。話し合いでネ。」
吉舎の前に九つの杯を並べ、儺升粒が微笑む。
「さぁ、空けて。」
直ぐに立ち上がり、ここから逃げ出したい。なのに体が動かない。トクトクと注がれたソレを受け取り、震える手で口元へ。
「アッ、アッ、アッ。」
ゴクリ。
注がれたのは新鮮な葡萄ジュース。シュワシュワするのは琅邪の外れで見つかった、天然の炭酸水で割ったから。
ギュッと絞ったのは琅邪女王。焼山まで運んだのは琅邪の社憑き、夜飛。
吉舎も鬼だが、その小さな体でココまで来るのは難しい。だから儺升粒が連れてきた。モチロンそんな事、他の九王は知らない。
「うん、美味しい。」
「・・・・・・そう、ですね。」
十王による不戦条約が締結。
国外は対国、国内は儺国が窓口になる事が決定。合わせて有事の際、社を通して情報を共有することも義務付けられた。
危険物や禁制品が持ち込まれた場合、感染症の疑いがある場合も同様。破れば処刑される、生体実験に使われる、処分される前に毒杯を仰ぐの三択。