15-40 生きて戻れると思うなよ
何だ、何がドウなっている! 目が翳む。指先が痺れて舌も痺れて息が、息が出来ないんだ。
死ぬのか。このまま極東の島で、こんな姿で。
良く見えないが、肌が黒く変色したのは分かる。加えて寒い。頭が割れるように痛い、怠い、眩暈がする。
乾燥した肌が裂け、噴き出す血も黒いのか。
「みずぅ。」
吐き気がするのに喉が渇く。
大陸兵が大量に吸い込んだのは、『紫煙』と名付けられた琅邪の毒。解毒剤は有るが助ける気も、生かす気も無い。
だから何もせず、ジッと待っている。
武装して攻め込むも一瞬で動きを封じられ、閉鎖空間で口を開けていた。直ぐに毒だと気付いたが、手足が思うように動かず転倒。
「あぁ・・・・・・。」
伸ばした手がダランとして、そのまま。
骨が融けた、肉が腐った。というワケでは無い。狭くなった視界が歪み、指や腕が欠損したように見えたダケ。
思い込みとは恐ろしいモノで、ショック死する者が続出。欠損箇所から血潮が噴き出た、骨が露わになったと大騒ぎ。
「死にたくない。」
武具の重みに耐えきれず、派手に転んで呟いた。
戦を仕掛けるなら、まず使者を立てて口上を述べる。
その慣例を無視したのだ。実験動物扱いされても、その骸を溶解されても文句は言えない。
「鼻が曲がりそうだ。」
イオが眉を顰める。
「そうですね。」
夛芸も辛そう。
「煙を消せたら、違うのかしら。」
ミチが首を傾げ、呟く。
儺国は鎮の西国にある、十の大国の一つ。近隣の村や国に攻め入り、滅ぼしたり組み込んだりして領土を拡大。
大王が人だった時はガバガバだったが、当代は違う。
琅邪社の継ぐ子で戦嫌いな小鬼は、大陸兵の手足を捥いだ。
叫ぶソレの頭に溶液をバシャリ。ジュッと融けるソレを冷たい目で観察し、ユックリと数を数える。
「死にたいなら海を越えず、大陸で死ねよ。」
死にたいワケでは無いと思うが、吉舎には自殺志願者にしか見えないのだろう。
「片付けるの、疲れるんだよねぇ。」
気持ちはわかる。
「見るなり起たせて、襲い掛かるトカ何なの。気持ち悪いんだけど。」
小柄で整った容姿をしている吉舎に襲い掛かり、伸びて固くなったソレを突っ込もうとした。
「小っちゃ。」
ガッと掴んで引っこ抜いたソレを、男の口中に突っ込んだ。
吉舎は儺国王である。民を守るため、己に出来る限りの事をした。
女と子を王の館に入れ、その回りに動ける年寄を配置。選ばれたのは、それなりに戦える者ばかり。
琅邪には雨降らしの巫がいる。
戦好きだった父王を殺し、儺から離れようと力を付けた。少しづつ豊かになって奴婢や卑呼を無くした。人に戻した優しく、賢い王。
そんな話を聞き、救いを求めた。
「ウチのに手を出そうとしたんだ。生きて戻れると思うなよ。」
頭を地に叩きつけ、鳩尾を蹴り上げる。




