15-38 元締は知らない
鎮の西国、十王は冷静だった。
一早く動いたのは儺国王、吉舎。
「仰せのままに。」
人の長である社の司、琅邪大王に首を垂れた。
「この命、尽きるまで。」
穏やかに和やかに治めると誓います。
吉舎にとっての神は二柱。琅邪に御坐す生き神、琅邪女王神と琅邪王弟神。儺升粒はオマケ。
遠く離れた所で何が起きたのか分からないが、琅邪大王が姉弟を裏切る事は無い。だから従う。
それダケ。
「卑呼女さま、ありがとうございます。」
民も跪き、祈りを捧げた。
儺国に滅ぼされ、取り込まれた国は多い。里が村に、村が国に、国が大国に破れて今がある。なのに琅邪は立ち上がり、儺を呑み込んだ。
戦好きなんて要らない。シッカリ治めてくれるなら、琅邪との結びを守ってくれるなら何でも良い。
吉舎は子だが、琅邪から送り込まれた賢い子。きっと穏やかに、和やかに暮らせる国にしてくれる。
「吉舎さま。これからも、どうか。」
ひれ伏され、パチクリ。
「力いっぱい務めます。」
キリリ。
真中の七国に続き、中の西国も収まった。このままでは戦の具、船も売れない。鎮の西国なら、まだイケル。
そう考えた大陸の武器商人が集まり、酒を持ち寄って密談開始。
「どうする。」
大陸の武器商人、仲良く前のめり。
「儺国。」
元締が呟いた。
「王になると戦闘狂になる、鎮の西国の。」
得意先の一つデス。
「子が王になった、らしい。」
「・・・・・・エッ。」
儺国王はコロコロ変わる。
儺国に滅ぼされた国からも出たが、儺国王になると呪われるのか。揃って戦闘狂になると聞き、アレコレ揃えて持ち込んだ。のに断られ、若いのを残して帰国。
その若いの、どうなったのかって? 直ぐに捕らえられました。只今、琅邪薬学に貢献中。
薬、いや毒ですネ。紫煙を吸ってマス。
紫色の煙から、タバコの事を紫煙と呼びます。けれどコチラは琅邪の猛毒。
実験の被験者は公募するモノですが、この被験者は違いますネ。ウフフ。
「その子、人ですか。」
オッ、鋭い。
「妙な技や力を持つ怪物とか。」
小鬼です。
「だとしても妙だな。」
何が?
「最初に親、それから子に譲位するだろう。」
まぁね。
商人は情報が命。アチコチに部下を派遣し、アレコレ探らせている。けれど最近、定期報告が途絶えた。
「儺国王は琅邪から通っている。それも毎日。」
ドヨッ。
「琅邪は儺国に取り込まれた小国。海からも近く、開けている。狙うなら琅邪だ。」
元締は知らない。その琅邪には鬼、妖怪が居ることを。