15-36 恐ろしい事を考える
鼠神は時折、サラリと凄い事を仰る。
叢闇の品をドコに納めるか、ウンウン唸っていた時もそう。
「鼠神!」
「チュッ。」
蛇に睨まれた鼠が取る行動は一つ。四つ足を素早く動かし、その場を去る事。
敵前逃亡? 違いますヨ。勇気ある撤退です。
「ふぁふぇ。」
はじまりの隠神、逃げ足自慢の鼠をカプリ。
呑み込まぬよう気を付けながら、ゆっくりニョロニョロと蛇行。
「話を聞こう。」
カパッと開いた口からコロンと下ろされ、ガクガクぶるぶる。
「ひゃふり辺の守ハ、人のモリで。死んデモ守とシテ、望まレるので。」
小さな御目から涙が溢れる。
「人からも隠からも強く望まれれば、力が無くても姿を見せられます。」
前足で涙を拭い、キリッ。
「琅邪女王と王弟は奴婢の子。幼い時から酷い扱いを受け、卑呼と蔑まれて育ちました。そんな姉弟は支え合い、力を付けます。」
鼠の情報網は蜘蛛より小さいが、その組織力。構成員の多さではピカイチ。
初動では『蜘蛛の子を散らす』の語がある蜘蛛に劣るが、『ねずみ算』の語があるホド繁殖力は旺盛。
「琅邪大王が漢王から『親漢儺王』の呼び名を与えらたのも、卑呼姉弟から勧められたから。やまとでは弱くても、認められなくても強く出られるから。」
オイソレと手を出せませんよね、暫くの間は。
「睨まれている間に琅邪を豊かにすれば、食べ物を多く蓄えれば強くなります。毒の扱いが上手い弟は悪いので薬を試し、組み合わせを絞り込みました。」
悪いのはモチロン、破落戸や腐った臣たち。
「食べ物が多ければ飢えない。薬があれば、重くなる前に治せます。死にません。」
儺升粒が琅邪大王になり、卑呼姉弟を厚遇するようになって変わった事がある。
たった数年で女たちが強くなり、低かった出生率が上昇。それに伴い、乳幼児の死亡率が激減。
動けるようになった高齢者が子守りをすることで、若者が安心して働きに出られるようになった。子が産めなくても織物は出来る。
柔らかくて丈夫な布が手に入るようになり、オシャレの幅も広がった。アチコチで恋の花が咲き、小さな命が誕生。
琅邪が豊かになれば当然、儺国がアレコレ言ってくる。けれど全て跳ね返した。
刺客を毒で弱らせ、森の奥にある洞で生体実験。使いには儺に戻ってから死ぬよう、適量の毒を飲ませて放逐。
「・・・・・・恐ろしい事を考える。」
溜息交じりに、大蛇神。
良村を作った人は皆、『早稲の他所の』人の生き残り。だから、なのだろうか。迷い無くスパッと片付け、眉一つ動かさず捌いていた。
良村は良山の中にある。山中に罠を仕掛ければ、登山途中で始末可能。ホイホイを仕掛けるようなモノ。
過剰防衛とも言えるが、良村を狙うのは戦好き。非戦闘員を守りながら戦うには、残念ながら他に手が無い。
何人か天寿を全うし、隠の世に移り住んだが同じ良山。今も微笑みながら見守っている。
「開けた地に在りますから、選べなかったのでしょう。」
烏神が呟き為さると、数多の隠神が頷き為さった。




