15-31 食べないんですか
儺国王が死に、新しい大王が選ばれた。
押し付けられたのだろう。とは思ったが、どう見ても子だぞ。
「琅邪の吉舎です。」
ニコリ。
小鬼にもイロイロ居るが、少なく見積もっても三百年は生きる。
吉舎はピチピチの八十代。角も牙も上手に隠せるし、体は小さくでも力は強い。心の声もバッチリ聞こえる。
儺に集まった十王のうち、九王は人。
幼子だからと見た目で判断してはイケマセン。吉舎は琅邪社の鬼ですヨ。
「ではソロソロ、参りましょう。」
ニコッ。
「そう、ですね。」
体が、重い。目が翳む。
ココは鎮の西国、儺国の外れに在る琅邪。琅邪社は大王の家より大きく、倉と同じように建てられている。
話には聞いていたが、ココまでとは。
いやソレより何だ。出されたモノには口を付けず、持ち込んだ水しか飲んでいない。なのに、思うように動かないぞ。
「琅邪女王、卑呼女さま。琅邪大王、儺升粒さま。儺国王、吉舎で御座います。」
ペコリ。
「御会いくださり、ありがとうございます。」
ニコリ。
残り九王が重い体に鞭打ち、首を垂れた。
皆、感じている。女王の弟は毒使い。ナニカを盛られた、とは思わない。だから嗅がされたのだ、と。
儺を手に入れた琅邪に、強い力を持つ琅邪に手を出せばドウなる。王、それも大王だ。考えなくても判る。だから社を通して先触れを出し、こうして集まったのに。
「儺国は琅邪に仕掛けません。攻め込みません。誓いますっ。」
ニッコォ。
儺国王よ、辛くはナイのか。そんなに大きな声を、出して・・・・・・。
わ、笑っている。ツヤツヤしている。
そうだ。新しい儺国王は琅邪の民、琅邪から選ばれた大王。子だから何だ。
「対国も誓います。決して琅邪に、儺国に仕掛けません。攻め込みません。」
「珂国も誓います。決して琅邪に、儺国に仕掛けません。攻め込みません。」
対国王と珂国王が競うように述べ、ひれ伏した。それから岐国王、崎国王、熊国王、分国王、筐国王、筑国王、糟国王の順に倣う。
皆、考える事は同じ。
あの儺を落とし、幼子を王に据えた琅邪は他とは違う。王弟が姿を現さないコトも気になる。
陰からコチラを伺い見て、アヤシイ動きがナイか探っているに違い無い。
国を守るには、民を守るには死ぬ気で当たらねば!
パクパク、もぐもぐ。
「・・・・・・。」
ゴクゴク、ぷっはぁ。
「あれ? 食べないんですか。」
もう遅いからと言われ、琅邪大王の家に泊まる事になった十王。出された御馳走に手を付けたのは儺国王、吉舎だけ。
他の九王は様子見。
「美味しいよ。」
この世の終わり、みたいな顔しないで。