15-30 死んじゃうよ
もう飛べなくなる。そう思った時、怖くなりました。もう会えないと、戻れなくなると。
「チュン。」 プッハァ。
食べた食べた。
琅邪って清らで、とっても良いトコロだね。蝗に蛾の幼虫。あぁ、お腹イッパイなのに涎が。
「吉舎は賢い鬼です。何か起こる前に野繆分社に駆け込み、助けを求めるでしょう。」
野繆は儺国に滅ぼされた国の一つで、野繆神が御坐した地。
「それはソウですが、彼の地は。」
使わしめ、穆を放たれてから御力を揮われた。けれど救えたのは、死んでしまった人だけ。
「野繆分社には野生が居るので、分狐から直ぐ。分社から琅邪への送り迎えは夜飛に。」
幼く見えるけれど、その背に黒い翼を持つ夜飛は人と、烏の隠が融合して生まれた妖怪。高い戦闘力を誇る。
野繆分社は儺国管理拠点の一つ。アヤシイ動きがあれば直ぐに動けるので、避難するにはモッテコイ。
「儺国の民は、その多くが呪われています。」
ポンポコお腹を引っ込め、千声が言い切る。
「はい。」
鬼になって水と風を操る力を。それから物を見定め、細かく調べる力。水と風を使えば離れていても、悪い考えを持つモノを探し出す力。先読の力に癒しの力、心の声も聞こえる。
偽りと真も判るのに解けない。
儺国は、儺国兵は殺し過ぎた。
取り込まれた里や村、国の民は悪くない。なのに呪われ、苦しんでいる。何とか出来たのは琅邪だけ。
行って戻るなら何ともナイけれど、他へ移れば同じように。
「琅邪神。」
・・・・・・。
「琅邪女王神。」
ハッ!
「神だから何でも、そう御思いですか。」
『妖怪』と呼ばれる隠の中で、力を振るって勝つのは鬼でしょう。けれど違います。
「そう、ですね。」
奴婢を、卑呼を嬲ったのは消した。
琅邪に奴婢、卑呼も居ない。そんな琅邪だから他から、他では生きられない人が押し寄せている。
「ありがとう。」
いつか隠の世へ。けれどソレまで、救えるダケ救おう。
御隠れ遊ばした野繆神は、生き残った暢を。穆の子に光を見出された。野生と名付けられた狐の子は鬼に守られ、社憑きとして生きている。
猫神に御願いして社へ。隠の世、郡山に迎えよう。そう思ったけれど、あの子は見つけた。同じ思いを抱く鬼を。
心から信じ、頼る事が出来る親を。
「ねぇ、ミツ。」
「なぁに、両葉。」
「もう良いんじゃナイかな。」
「ん?」
「死んじゃうよ。」
「・・・・・・あら。」
隠の世。鎮の西国、儺国に聳える郡山。貪って飽きるコトを知らない、とても欲が深い隠や妖怪が多い。
だからソレはソレは厳しく取り仕切られ、保たれている。
少しでも悪さすればハイ、この通り。
死に別れた誰かが、川の向こうで手を振るのが見えた? それ、夢ではアリマセン。




