15-26 温かい食べ物は温かいウチに
あの生き物は、儺の男は怖い。恐ろしい。
笑いながら、楽しそうに嬲るんだ。みんなヤツらに・・・・・・殺された。
もう何も見えない。でも聞こえる、いつまでも。
まだ聞こえるんだ。ヤツらに。ヤツらにアレコレされて叫ぶ、みんなの、みんなが泣き叫ぶ声が!
「あぁ、力があれば。」
バタンと倒れ、目から光が消えてゆく。
「ごめん。」
逃がしてもらったのに、死んじゃう。
会えるかな。死んだら、みんなに。笑って。
もう痛くない、苦しくない。寒いけど、そのうち何も感じなくなる。の、かな。
小さな村だよ。小さな里人が集まって、儺国から隠れて暮らそう。そう話し合って森の、山の奥に移り住んだ。
村の名は吉舎。『のびやかに暮らせますように』って祈った時、曇っていた空がパッと晴れた。だから吉舎。
村の子なら、みんな知ってる事さ。
「姉さんが言っていた子・・・・・・じゃナイな。」
子は子だが、この子は鬼。
「オイ、諦めるな。生きろ。」
オジサン、だぁれ。
鬼から生まれた、いや違う。死んだ者の魂が一つになり、融け合って骸に入って鬼になった。そうと知らず、親か誰かに逃がされたのだろう。
儺国王が、大王が変わったのに繰り返す。儺国の民は、兵は腐っている、纏めて片付けるか。
今、動かなければ鬼が増える。
一隠では生きられない、まだ幼い隠が闇堕ちすれば歪む。姉さんはソレを、そんな事を望まない。
「琅邪女王の弟、卑呼男だ。」
ろうや? うぅん、何だっけ。
「ドコから来た。」
言わない!
「女王が御呼びだ。さぁ、おいで。」
逃げなきゃイケナイのに、体が動かないよぉ。
・・・・・・あれ?
「さぁ、お上がり。」
食べても良いの、これ。
「温かい食べ物は温かいウチに。」
そう、だよね。
ボロッボロだった衣を剝がれ、湯の中に放り込まれた。それからゴシゴシ洗われ、湯が真っ黒になっちゃった。
髪も洗ってもらってスッキリした、のは良かったケドね。何だろう、この感じ。
「いただきます。」
パクリ。
美味しい。葉の物がイッパイ、干し貝も入った粥なんて久しぶり。とっても美味しいよ。
妹や弟、姉さん兄さん。母さん父さん、お爺お婆にも食べさせたかった。
・・・・・・弟なんて居たっけ。
アタシ姉さん、違う。兄さんだった。ん? そうだ! 父さんが戻らなくて、母さんに「逃げなさい」って。
「今は何も考えず、食べなさい。」
「はい。」
パクリ。モグモグ、ゴックン。
村の民は皆、死んだ。逃げた子の多くは捕まり「あの時、死んでいれば』と思うような扱いを受ける。
逃げ果せた子も死んだ。獣に襲われたり、弱って死んだ。
骸は獣に食われたり、腐ってバラバラになる。その魂は迷わず根の国へ。
人の世に残ったのは、死んだ子の骸に入った魂の群れ。