15-25 あの空の下へ
儺国から奴婢が、卑呼が消えた。
ガリガリに痩せて動けない者は琅邪に運び込まれ、動ける者は琅邪と結んだ地に移される。
生まれ育った地に戻りたい。そう願えば長や王、社を通して話し合う。
受け入れられれば戻れるが、断られる事が多い。
「美味しい。」
瑞瑞しい桃に口を付け、ポツリと呟く。
「ユックリお上がり。」
コクンと頷き、泣きながら食べる。
甘い実なんて久しぶり。
親と暮らしていた時は、秋になると猿梨や葡萄、柿の実を食べていた。干し貝や干し肉が入った粥を食べ、温かい家でグッスリ眠る。
ずっと、ずっと続くと思っていたのに壊された。
目の前で父が、兄が殺された。母が、姉が穢されるのを見せられ、動けなくなった。『同じ事されたいか。』そう問われ、漏らした。
「蕎麦の粥、食べられる?」
パチクリ。
「粟や稗の粥が良いかしら。」
キョトン。
「焼いた芋や蒸した芋なら、きっと食べられるわね。」
涙腺崩壊。
蕎麦、粟、稗の粥も大好き。蕎麦は粥にしたり、粉にしてから練ったり、団子にして食べていた。火を囲んで、みんなで。
「さぁ、熱いわよ。」
器に盛られた芋は柔らかく、匙がスッと通った。それをフゥフゥしてからパクリ。
「甘い。」
山に囲まれた、とても小さな村だった。
平らな地に手を入れ、耕してイロイロ植えた。芋や豆、葉物。偶に商い人が干し貝や干し魚、若芽を持ってきてくれた。
獣の肉や皮と、海の食べ物を換えてくれたんだ。とっても優しくて、『またね』って。・・・・・・なのに死んでた。
川に落ちたのか、捨てられたのか分からない。腹を熊に食われて、転がった首が。顔が。
「琅邪には酷い事をする人も、奴婢も卑呼も居ないの。卑呼女さま、卑呼男さまが儺升粒さまと力を合わせて、悪い王や臣を追い払ってくださったのよ。」
琅邪に居れば、もう嫌な事されない?
「ゆっくり休めば、また歩けるようになるわ。」
コクン。
「生まれた地に戻りたい?」
フリフリと首を横に振る。
あんなに荒らされたんだ、戻れないよ。
「そう。」
儺国の兵に攫われ、朝から夜まで働かされた。それから穢され、逃げたら捕まって奴婢に。
足を折られた。逃げられないように、逃げようと思わないように。その次の日、外がザワザワして静かになった。
死ぬのかな、殺されるのかな。痛いのは嫌だなって。
「杖は要るだろう。けれど、きっと歩ける。」
歩ける?
「走るのは難しくても、外に出られるわ。」
また、あの空の下へ出られるの?
幼子を攫い、娘になったら穢す。飽きたり逃げたら奴婢として売り払う。そんな蛮行を繰り返し、儺国は大きくなった。
儺国王は十王の一人。儺国を滅ぼしても、また同じようなのが就くダケ。だから琅邪が操る。