15-22 生きて戻れません
中の東国に引っ込んだ猫又が、鎮の西国に現れた。
研ぎに研いだ鋭い爪で斬りつけられ、事切れた骸が山のように積み上がり、腐臭を放っているトカ何とか。
「止めろ! やまとに出すな。」
一度、積み込んだ荷を下ろすよう指示。
「帳面と照らし合わせ、全て確かめろ。一つも出すな。」
叢闇のアレコレは倉庫に戻され、『持出厳禁』の札がついた。数日で紛失するが、やまとに入る事は無い。
「コレは何だ。」
伯耆空軍大将、探知の目が光る。
「盾ヨ。悪くナい、危ナくナいヨ。デス。」
密航船の乗組員が、ガタガタ震えながら訴えるのは当然。ソレなりに大きな舟の周囲をグルッと、伯耆海軍の精鋭が囲んでいる。
伯耆海軍大将、波子は和邇の隠。つまり和邇率、高め。
性質は獰猛、群れで行動。シロナガスクジラからラッコまで、さまざまな海生哺乳類を捕食。海鳥や海亀も食べる海のギャングは貪欲で、世界中の海に分布。
「皆、備え!」
グルン、バシャン。
「ヒッ。」
和邇の群れが鰭を振り、グワンと視線が高くなる。船員が櫂を捨て、縁を掴んだ。
「もうしません! 陸で暮らします。海に出ません。だから、だから殺さないでぇ。」
生きたまま食い殺されるのはイヤだ!
「困るねぇ。」
穴門の社憑き、通称『穴門衆』がギロリ。
「剣ヨ。良く切れルけど、危ナくナいヨ。デス。」
外海を守るのは伯耆軍。内海を守るのは穴門衆と周坡衆。日替わりで磐現、出雲の和邇も参加。
伯耆軍が逃しても海の藻屑となる。
仮に上陸しても愉快な仲間たち。酒に釣られた猫又や蛇、猿などが待ち構えており危険性が高い。
報酬が高ければ? いえいえ。命を懸けるほど貰えません。
「血祭りだ。」
シュパン、ブシュゥ。
「食らい尽くせ。」
ビチビチビチィ。
プラニアもビックリの食いっぷり。食べ残した肉は全て、育ち盛りの小魚がパックンします。
禁制品は回収され、海社で適切に処理。
いつか浄化できる強者が現れるまで、キッチリ厳重保管されるので安心・安全。海底に在る社まで盗みに入る、なんて命知らずは居ないでしょう。
生きて戻れませんヨ。
「助けて!」
ボロボロになった大陸妖怪が妖怪の町、瓢に飛び込んできた。
「フンッ。」
瓢の民は大陸で冷遇され、亡命するしか無かった者たち。やまとに骨を埋める覚悟で海を渡った。
「知っている事、全て白状しろ。」
書記、スタンバイ。
「ハイッ。全て、全て話します。」
用済みになれば纏めて殺処分し、骸は海や火口に遺棄。知り得た情報は大社に、危険物は指定された社に持ち込む。
それらは適切に処理され、表に出る事は無い。
「どうなっている。」
幾ら発注しても届かない商品を、イライラしながら待つ愚か者。
「それが、その。分かりません。」