15-20 材料は揃った
琅邪社に瓢の臣、竜が饅頭を持って訪れた。
餡ナシの本格派。
「思った以上に豊かだ。」
思わず呟く。
「大陸の言の葉ですか?」
イオが微笑む。が、その目は鋭い。
「はイ。」
声が裏返った。
トップ会談の日程を決めた竜が戻ったのは、瓢を出た翌日の昼だった。
もう遅いからと引き止められ、琅邪に一泊。山海の珍味に舌鼓を打ち、一休みしてから温泉に入る。
ポカポカしたままグッスリ眠ったので、お肌プリップリ。
大陸の鬼は好戦的で吞兵衛。醜悪な形相と自在な怪力で人畜に危害を与える怪物である。しかし琅邪の鬼は人だったからか、とても穏やかで優しかった。
儺呼山社と結んだのも、儺国王や臣たちの暴走を阻止するため。
「女王と王弟は鬼、大王は半鬼と聞いた時は驚いたが、そうか。人として死ねば鬼になるのか。」
「はい。」
親漢儺王の呼び名を与えられた王だ。強か者だと思ったが、琅邪を儺から守るために海を渡ったダケ。
その間、琅邪を守ったのは姉弟。
女王は弟に守られながら民を導き、多くの命を救う。
瓢は鎮の西国、郡山にある妖怪の町。
条件付きで人の世の外れに『異なる国の民』として生きることを認められ、隠の世では無く人の世の外れ。闇が集まるが猫神の目が光っている地へ引っ越した。
もう後が無い。
「材料は揃った。会談前日から仕込み、当日に蒸すぞ。」
「ハイッ。」
儺呼山社は、いや儺呼山神は酒に呑まれて琅邪社と同盟を結び、儺国王無力化計画に参加。
その後、友好関係を築くが、それは別の御話。
様子見する事無く早早に動いた瓢は、儺呼山社と結んだ琅邪社と友好関係を築く。
後に大社、というより稻羽から『聞いてナイぞ』と叱られたがドコ吹く風。
「琅邪が在るのは鎮の西国。中の西国なら動けるが、どうしたモノか。」
チラリ。
「大国主神。」
「何だい、稻羽。」
キラキラキラァ。
「こちらを。」
スッと差し出されたのは隠の世、郡山に御坐す猫神からの文。ではなく神成山の暴れん坊、流からの文でした。
「ヒッ、引っ掻かれる。」
お猫サマは気紛れですが、手を出さなければ爪を出しません。
「おっ、大事だ。」
文の内容は『大陸から、叢闇の品が入るから気を付けてネ』というモノだった。
「伯耆、いや穴門に使いを。急ぎ、急ぎ向かわせよう。」
ガクガク、ブルブル。
「落ち着き為さいませ。」
「稻羽もな。」
後ろ足をタシタシする使わしめをソッと抱え、優しくナデナデ為さる。赤い目がスッと細くなり、使い兎たちが静かになった。
「やまとに持ち込まれる前に舟を鎮めれば、禍を齎す品は海の底。時は掛かるが清められ、朽ちるだろう。」
ニッコリ。
「海神からお許しをいただいてから、穴門と周坡に使いを。」
「そうだね。」