15-18 強い酒を
困った。どう見ても鬼だ。強い鬼だ。
人だった時、酷い扱いを受けたのだろう。恨み、いや憎しみを宿している。守りたい誰かを殺されたか、言えないような事をされたか。
・・・・・・もっと酷い事を?
「静かで、良い御山ですね。」
イオが微笑む。
「はい、ありがとうございます。」
長生もニコリ。
その心は乱れに乱れ、考える事を放棄した。
儺国王を動く骸にし、琅邪が儺を裏から操る?
いやソレは良い。今すぐに始めてくれ、じゃなくて始めてください。お願いします。
「チュン。チュチュン、チュン。」 オマタセシマシタ。ナコヤマノカミノツカワシメ、チモリデス。
「千声さま。お声が、その。雀です。」
「チュン。」 エッ、ウワァ。
両の翼で頭を抱え、冷や汗ドッバァ。濡れ雀にナリマシタ。
何だカンだで話が進み、琅邪社と儺呼山社は結ぶ。
鬼の同盟である。隠の世、郡山に御坐す猫神にも報告済。
和山社への根回しもバッチリよ。
「鬼神か。」
八百万の神の国である。鬼神が御坐してもオカシクないし、集い座して議り為さるのを止められない。
「にしても何だ、この力は。」
人の世から出られないし、隠の世へも入れない。禍を齎される事も無いのだ。暴れない、傷つけないから好きにすれば良い。
それダケの事。
闇が濃過ぎる。何でも多過ぎるのは、強すぎるのは良くない。
良く、良く考えて動かなければ、きっと恐ろしい事が起こるだろう。そうなる前に。
「いや、いいや落ち着け。」
生き神でも国つ神。
「ん? 女神の弟・・・・・・。」
月読尊、素戔嗚尊。
「ヒィッ。」
阿波岐原の禊で、悪しき神として漂い出したのが、八十禍津日神、大禍津日神。
禊の最後に、両目と鼻を洗浄し現れ出られたのが天照大御神、月読尊、素戔嗚尊。
「尊い三柱は天つ神。」
スゥハァと息を整え、御考え遊ばす。
素戔嗚尊は海原・天下・根の国の支配者とされるが性質は獰猛。
高天原でイロイロやらかし為さり、高天原から追放されて出雲国、簸川上流へ。
そこで八岐大蛇を斬って群雲剣を得、天照大御神に献じ為さった。
出雲系神話の祖神とされ、子孫には大国主神も御坐す。
暴風神、農神、疫神として信仰され氷川神社、八坂神社などに祀られる、とても元気な神で在らせられる。
「琅邪女王神は国つ神。」
とはいえ、姉が神で在らせられるのは同じ。
「千声、夜鳥。酒を。強い酒を集めておくれ。」
イオを八岐大蛇のようにグデングデンに酔わせ、その首を。と御考えですか?
「サルナシと葡萄で作った酒なら、こちらに。」
卑呼男ことイオ、酒が入った瓢箪を持ってニコリ。