15-15 姉弟は微笑む
儺呼山と琅邪は離れているが、同じ儺国に在るのだ。仲良くしておいて損は無い。
琅邪で飲まれるのは主にサルナシ酒や葡萄酒、蜂蜜酒も好まれる。なのにワザワザ口噛み酒を造ったのは、神に捧げる酒だから。
この度、捧げた酒は琅邪社の主神、卑呼女ことミチが塩で歯磨きしてから醸造。
その弟、卑呼男ことイオから造り方を聞き、顳顬が痛くなっても頑張りました。
「甘くて美味しいね。」
「うん。とっても美味しい。」
琅邪に移り住んだ子が丸太に腰掛け、桃の実を幸せそうにモグモグ。
力仕事が中心だが三食オヤツ付き。相部屋だが暖かく、足を伸ばしてグッスリ眠れる。つまり健康そのもの。
「栗の木や柿の木も植えようかしら。」
ミチの力か? 社の横に植えられた木に、桃が鈴生りになっている。
「そうだね。」
イオが微笑む。
桃の実が生るのは夏。春にはタラ、ウド、フキノトウなどの野草。秋にはアケビ、マタタビなどの木の実。
食べる物には困らないが、山に入らなくても甘い実が食べられればヤル気が出るだろう。
「儺呼山と琅邪の間にあった国に、ガリガリに痩せた鬼の子が隠れ住んでいるの。」
「夛芸が戻ったら、直ぐに向かわせるよ。」
「ええ、お願い。」
琅邪に迎え入れられた子の多くが鬼。
角や牙が生えていなければ、他の地でも生きられるだろう。けれどソレらが引っ込まず、合いの子より力が強ければドウなるか。
考えるマデも無い。
闇堕ちしたまま朽ち果てるか、悪いのに使い捨てられるか。女なら、言えないような事をされて殺される。
「早く戻らないかしら。」
日が暮れる前に戻ると分かっているのに、オカシイわね。
「もう直ぐ戻るよ、きっと。」
『寄り道せず戻れ』と言ってあるからネ。
水が足りず、それでも何とか作った食べ物を儺国に奪われた国は多い。
戦に敗れて組み込まれたのだ。当たり前と言えば当たり前だが、このままでは冬が来る前に死んでしまう。
搾り取るだけ搾り取って、ちっとも助けてくれない儺国から離れなければ。そう考え、長や王たちが琅邪に押し寄せた。
琅邪も儺国の一つ。
同じように求められたが突っぱねられたのは、死んで鬼になったから。人がドッと攻めてきても指先一つで屠れる。
人に従う事は無い。
「大きくなったわね。」
「そうだね。」
小国だった琅邪は数多の里や村、国と結んで大きくなった。その全てが潤い始め、民の目に光が戻る。
そうなればウチも、となる。
今なら儺を滅ぼし、根絶やしに出来るだろう。けれど動く気は無い。
儺国王になれば十王の一人になり、他からイロイロ押し付けられるから。
「次の儺国王、いつまで生きるかしら。」
「うぅん、二年かな。」
儺国王が琅邪に降り、黙って十王の勤めを果たすまで待つしかナイ。
姉弟は微笑む。『それまで待つしかナイなんて、気が遠くなるナ』と思いながら。