15-13 知っている事があるなら
儺国王と大臣が死んだ。それは瞬く間の出来事で、駆け付けた数多の臣も倒れる。
骸の肌は紫に染まり、見開かれた目は真っ赤っか。
とても苦しんだのだろう。口から泡を吹き、胸や喉を掻き毟った痕が有った。
「儺国王は琅邪に。女王、卑呼女の居る国に仕掛けようとしていたと聞く。」
ガタガタ。
「あの国は小さいが、とても豊かな国だ。」
ブルブル。
「雨降らしの巫が、卑呼女さまが御坐す国。」
ゾゾゾ。
アッチでブツブツ、コッチでゴニョゴニョ。
鎮の西国、十王の一人が酷い死に方をしたのだ。当然だろう。
残り九王が集い、琅邪大王に謁見を申し入れたのは数日後。
「儺国王が務まるのは琅邪大王、儺升粒さまダケで御座います。どうか、どうか。」
そう言って平伏すのは、運よく生き残った臣の一人。
「断る。」
今は人だが死ねば鬼になり、社の司になる。
生き神に御なり遊ばしたミチさま、弟のイオさまに御仕えし、琅邪を守り続けるのだ。儺国王など、なるモノか。
「そう仰らず、この通り。」
額をゴンとつけ懇願する使者を、冷たい目で見る儺升粒。その手には土器の杯。
「頭を上げてください。喉が乾いたでしょう? さぁ、どうぞ。」
モチロン少量、入ってます。松毒。
「ありがとうございます。」
グビグビ、プッハァ。
「私は琅邪王の倅として生まれ、琅邪大王になりました。この地から離れて生きる事など出来ません。そうそう、女王が仰いました。通り雨が降ると。急ぎ儺に戻り、お知らせください。」
ニッコリ。
「ハイッ。皆、喜びます。ありがとうございました。」
通り雨が降るのは琅邪。降り出す前に発ち、儺の国に帰ってネ。という意味です。
勘違いさせちゃったカナ? ゴメンね。
そうそう。引き続き、乾燥注意報が発令されてマス。火の取り扱いには十分、お気をつけください。
「逃げろ! 焼け死ぬぞ。」
ボォボォボォ。
「山が! 木に燃え移った。」
バチバチバチ。
「水ぅ、水ぅ。」
喉が焼ける。
「ギャハハハハ。」
琅邪に遣わされた臣は儺に入る前、山際の家に火を放った。
カラッカラに乾いていたので、アッと言う間に燃え広がる。
「シッカリしてください。笑っても火は消えませんし、良くなる事もアリマセン。」
死んだ大臣の倅が叫ぶように言い、肩を掴む。
「知っている事があるなら話してください。琅邪を、女王を怒らせたのですか。」
儺は大騒ぎ。
焼け出された民は持ち出せるだけ、食べ物を持ち出していた。幼子も年寄りも、フラフラになりながら。
だから暫くの間、飢える事は無い。
「チュン、チュチュン!」 ナニコレ、オオゴトダァ!
儺呼山神の使わしめ千声、大騒ぎ。
「キョキョキョキョキョキョキョ。」 イヤナニ、ミズミズ。ヒヲケセ、ヒヲケセ、ミズヲモテ。
社憑き、夜鳥も大騒ぎ。
「千声、夜鳥も落ち着きなさい。」
社の司、長生が一喝。




