15-12 腕が鳴る
琅邪には何かが有る、いや居る。気付いた時には手を出せなくなっていた。
あの小さく、貧しかった国がアッという間に豊かになり、力を付けるとは思わなんだ。
儺升粒が王になって変わった。琅邪を認めさせるために海を渡り、親漢儺王の呼び名を与えられた。
そう聞いて驚いたモノだ。
「卑呼が王を名乗るとは。」
信じられない。
「雨を降らせる巫が居る、とは聞いていた。他では生きられぬ者を受け入れ、隠れ里や村を取り込むとも。」
だから、と卑呼を女王にするか?
「兵、使いを送り込んでも生きて戻らぬ。」
巫を女王に据え弟、卑呼男を傍らに置く。琅邪大王でも許し無く近づけぬ。そんな女が、奴婢の子が王?
頭がオカシクなったのか。あの時は、そう思った。
琅邪は村から国になり、どんどん豊かになっている。儺に従わず、琅邪を軽く扱うなら儺から離れると言ってきた。
信じられない。
「毒使いが居るとか、動かずに熊を殺すとか。作り話だろうが、もし。」
真ならドウする。
「・・・・・・今は儺の一つだ。」
鎮の西国、中の西国もだが多くの、とても多くの王が命を奪われている。苦しみながら。
儺国王も、いや違うのが居たな。
王の倅で兄が四人、いや三人。妹には優しかったと聞く。その妹が耶万に攫われ、兵を引いたとか何とか。
腰抜けに王は務まらん。なのに『良い王だった』とか『賢い王だった』と、今でも持ち上げられている。
「サミ、だったか。」
儺をココまで大きくした男。若くして病に倒れ、眠るように死んだ王。
「雨降らしと毒使いを取り込めれば。」
儺は、もっと強くなるだろう。
「そうなれば、きっと。」
サミを超える。いやサミより良い王として長く、長く語り継がれるだろう。
と、考えているのだろうな。あの王は。
「させるか!」
姉さんを守るためなら、どんなに汚い事でもする。
「ふぅ、落ち着け。」
もう人では無い。鬼には鬼の戦い、遣り口が有るんだ。
「・・・・・・手始めに、松毒に似たアレを使うか。」
奴婢にされ、死んだ人。奴婢から生まれ、卑呼として死んだ人。何れもアチコチに呆れるホド居る。
隠になり、根の国へ行けた人は良い。けれど中には人の世に留まり、悪霊化した隠も。
鬼になったイオが初めに取り掛かったのは、そんな隠から失われたアレコレを聞き出す事。
その中に『松毒』と呼ばれる、松田に滅ぼされた松裏の毒も有った。
琅邪は山、海にも近く、手に入らない毒は無い。何がドレだけ入っているか分かれば、直ぐにアレコレ集めて作る事が出来る。
「クックックッ。」
腕が鳴るゼ。
試した事は無いけれど、儺国王になら迷わず使えるってモンさ。あの王は国を、儺を大きくする事しか考えてイナイ。
儺に取り込まれた国が、幾つ滅んでも痛くも痒くも無い。そんな男さ、アレは。
松毒は良い薬だ。多く飲ませれば直ぐ、少し飲ませれば遅く効き始める。タップリ飲ませれば『誰かに呪われ、苦しみながら死んだ』と語り継がれるだろう。
『琅邪に手を出すな』とか、言わせる事が出来れば良いのに。