15-11 奪う事しか考えられない
儺升粒が大王となり、琅邪から奴婢と卑呼が消えた。皆、琅邪の民として暮らしている。
ミチとイオも卑呼ではない。けれど変わらず卑呼を名乗るのは、忘れさせぬため。
「琅邪大王よ。儺国王の仰せに従い、蓄えの全てを納めるように。」
儺国からの使者、半笑いで明言。
「断る。」
「なっ・・・・・・。」
頭をグワングワン揺らし、ガクンと項垂れる。暫くすると顔を上げ、クワッと見開いた。
姉弟は鬼となり、鑑定・解析能力を得た。加えてミチには水、風を操る力と先見の力。イオには重力操作、瞬間移動と先見の力が有る。
儺国からの使いが何を言うか、断ればドウなるかを見て、しっかり伝えているので慌てる事は無い。
半鬼の儺升粒には思考操作能力が有るので、他国から何を言われても対処可能だ。
「儺国が琅邪を軽く扱うなら、琅邪は儺国から離れる。そう伝えよ。」
「はい。急ぎ儺国に戻り、大王と大臣に伝えます。」
使者の目は虚ろだが、務めを果たせば元に戻る。
鎮の西国を襲った嵐は、収穫前の農作物をダメにした。
先見や先読の力を持つ祝や、口寄せが出来る巫が居る地は良い。けれど他は絶望的。
琅邪は小国だが、そこそこ大きいので隠しようが無い。他の里や村から『食べ物を分けてほしい』と、琅邪に押し寄せている。
「蓄えは有りますが、冬を越せなくなると困るので。」
そう言えば十分。
「とは言え、お困りでしょう。芋と豆を一袋づつ、お持ち帰りください。」
何れも傷み易いので、植えて増やす事をオススメします。
「ありがとうございます。」
パアッと明るい顔になった。
琅邪は海の幸、山の幸にも恵まれている。
芋と豆が無くなっても蕎麦が有るので、粥や団子に。サルナシや葡萄は酒に。ドンクリやクルミなど、日持ちする物は甕に入れて蓄えている。
干し肉だってタップリ。
となると現れる。
「どうして奪おうとする。」
琅邪の大臣は元、狩頭。眼光が鋭い。
「それは・・・・・・。」
頼んでも、手に入るのは少しダケ。だから『倉を壊して、中のモノを根こそぎ』と考えた。ナンテ言えません。
「ドコから来た。」
儺升粒がゴロツキの髪を掴み、顔を上げさせる。
「答えろ。」
目が合った。もう、逃れられない。
「は、い。儺国から、大王に言われて来ました。」
訪問者の中には、里や村の長も居た。なのに儺は、儺国王は琅邪から奪う事しか考えない。いや、奪う事しか考えられないのだろう。
「大王、少し宜しいか。」
イオが微笑む。
「はい。」
ニコリ。
「その男、儺国に飛ばしましょう。他は片付けたので。」
「では、お願いします。」
琅邪の大臣が顔色一つ変えず、スッと下がった。