15-10 出来る事を精一杯
厚い雲に覆われ、ビュウと風が吹いた。だんだん暗くなり、遠くでピカッと光る。そしてザァっと雨が。
「頼む、お願いします。止んで、止ませてくださいぃぃ。」
鎮の西国を嵐が襲い、多くの作物がダメになった。山が崩れ、川が溢れ、家や田畑を押し流す。
高台に逃げた人は助かったが、他は・・・・・・助からない。きっと、あのまま根の国へ。
「このままでは稲が、米がぁぁ。」
万が一に備え、倉をイッパイにしていた国は困らない。けれど国を広げるために、いろいろ仕掛けるのに使ってしまったら?
はい、その通り。倉の中、空っぽ。
儺国は大国。組み込んだ国にアレコレ言い付け、貢がせられる。のだが米はモチロン麦、粟、稗、黍も納められない。
「芋、豆も腐ってしまった。」
秋になれば木の実やキノコが採れる。けれど、この雨で木の根が露わになれば。木が倒れて実をつけなければドウなる。
冬に備えて食べ物を集めるのは人も獣も同じ。食べ物が少なくなれば、それだけ多くの人が飢える。
空きっ腹では力が出せず、狩りドコロでは無くなる。そうなれば、きっとガタガタになるだろう。
「あぁぁっ! ドウすれば。」
大王が頭を抱えて蹲る。
ところ変わって琅邪。台風の眼にあるので雲が切れ、青空が見られる。
台風の眼は絶えず、その形や大きさを変えるモノ。一般的に眼の大きさは直径10から100kmほどで、稀に100kmを超える事もある。
のだが卑呼女が水と風、卑呼男が気圧を操作。儺升粒が民の考えを穏やかに操作し、混乱を防いでいる。
「刈り入れ、終わりました。」
「運び込み、終わりました。」
ニコニコ。
琅邪の稲は、その大半が早稲。琅邪の民が総出でセッセと収穫。
石器を扱えない幼子は嬰児の守り、少し大きい子は藁集めを担当。
食べ物は高床の倉、藁は館に運び入れた。
琅邪の倉は丈夫で長持ち。チョットやソットじゃビクともシナイ特別製、というワケでは無い。
「水瓶もイッパイです。」
エッヘン。
「薪も入れました。」
ニッコリ。
力の弱い子は子守り、力持ちの子は水汲みや薪運び。身籠っていたり年老いた人も、俵を編んだり筵を編んだり大忙し。
収穫の手伝いは出来なくても、己に出来る事を精一杯やる。
儺升粒が琅邪王になって直ぐ、琅邪から奴婢を無くした。卑呼姉弟を崇め、倉と同じ家を建てて住まわせた。
元は雨降らしの巫、誰も何も言わなかった。
「倉に入らなかったのは、社に置かせてもらいました。」
ドキドキしながら事後報告。
「『みんなで食べなさい』って、桃の実を頂きました。」
琅邪キッズ、揃ってウットリ。
「良かったね。」
大王に頭を撫でられ、エヘヘと照れ笑い。